IT業界をLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称)フレンドリーにする取り組みが始まった。この動きを起こしたのは、ソーシャルメディアの構築・運用代行を行うガイアックス(東京・品川)。同社は、ほかのIT企業と連携しながら、LGBT向けの採用基準や福利厚生など社内整備を整えていく。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
ガイアックスは6月24日、LGBTフレンドリーな会社になるため、社内にLGBT委員会を設置した。
同社は同委員会を設けるため、半年前から準備をしていた。同委員会では、社内規定を変更し、採用ポリシーの宣言を行っていく予定だ。今年度は、エントリーシートの性別欄を自由記述にし、社員が同姓婚や事実婚で結婚した場合も、祝い金を支払うなどの福利厚生を改善する予定。同委員会は同社のLGBT社員への相談窓口としても機能する。
同社は今後の動きとして、自社内だけでなく、同社と同じ規模感のIT企業と連携して、IT業界全体でLGBTフレンドリーになることを目指す。同社らが展開しているIT企業での合同新人研修「シェア研修」のように拡げていきたいという。同社の売上高は43億円で、従業員数は128人(2014年10月)。
同社は6月24日、全社員向けのLGBT研修を行った。研修に登壇したのは、LGBT向けにメディア運用や、企業向けに研修事業を行うレティビー(東京・品川)の外山雄太共同代表。ガイアックスは昨年レティビーに出資もしている関係でLGBT当事者の社員を役員として派遣しており、同社に研修を依頼した。外山代表は、LGBTの基礎知識や当事者が抱えるビジネスシーンでの悩みについて話した。
電通ダイバーシティ・ラボが2015年に行った調査ではLGBTの割合は人口の7.6%とされている。この割合は、日本で馴染みがある「佐藤」「鈴木」という苗字よりも多い。
外山代表は、LGBTを理解するため、ヒトには3つの性があることを説明した。それは、身体の性・心の性・恋愛対象の性。例えば、外山代表はゲイであるが、ゲイの場合は、身体の性は男性、心の性も男性、恋愛対象の性も男性だ。バイセクシュアルは、身体の性と心の性が一致して、恋愛対象の性は男女問わない者のことで、トランスジェンダーは身体の性と心の性が一致していない者を指す。これらの性以外にも、いかなる他者も恋愛対象にならないアセクシャル、自分自身の性を決められない・分からないクエスチョニングもある。
世の中は、男女二元論が常識とされており、トイレや服、呼び方などは男女の見た目で異なる。しかし、ヒトには無数の性がある。米国のフェイスブックでは性の選択肢は50個あるほどだ。
外山代表は、「LGBTとのコミュニケーションについて無意識に差別していることがある」と言う。何気なく会話するシーンを例にあげ、社員でワークショップを行った。
(飲み会の場で)「彼女・彼氏いますか?」――「男は女を、女は男を好きになるという前提で聞いているので偏見を与える。パートナーはいる?と聞くようにしよう」。
(美人なLGBT当事者に向かって)「そんなに美人なのに、レズビアンでもったいない」――「女は男と付き合って当たり前という偏見がある」。
(カミングアウトした人に対して)「ゲイでも偏見ないから大丈夫」――「無意識のうちに偏見を持っており、それに注意していかないと意図せずに差別的な発言をしてしまう。そして、そのことに気付けない」
LGBTへの無意識の差別的発言が、当事者と職場の距離を遠ざけている。特定非営利活動法人虹色ダイバーシティの調査では、LGBT当事者の2人に1人が就職・転職に困難を感じていることが分かった。
外山代表は、LGBT当事者に対する無意識の差別をなくすため、職場での改善は必須だが、「教育現場」にも言及した。「LGBTを初等教育から教えるべき」と言う。しかし、初等教育では「LGBTを教えることを性教育として認識されていることが多く、子どもがLGBTに目覚めてしまうから早い時期に教えることを反対する親もいる」(外山代表)
外山代表は、LGBTを教えることを、「性教育ではなく、個々のアイデンティティについての話」とし、「教えられてなるものではないため、早い時期から教えても何の問題もない。むしろ、早くに性を自認できるので、自分がおかしいのではないかと長年悩む要素が減り、当事者の気持ちを楽にする」。
LGBTへの対応は、企業が求められる喫緊の社会的課題の一つだ。グローバルでは、ロシアが2013年6月に反同性愛法を成立させたが、この法律に対して、欧米首脳が反対の意を込めてソチ冬季五輪の出席を見送った。日本では2013年、東京ディズニーリゾートで初の同性カップルによる結婚式が行われたが、当初はオリエンタルランドに断られた。同社の判断に対して、SNSで批判が殺到し、挙式にいたった経緯がある。
SNSが浸透し、企業と消費者の関係が変わった時代において、企業のLGBTへの対応も見られている。LGBTに対する差別行為は、当然批判を浴び、その逆に、LGBTフレンドリーになれば、共感を受け、企業価値の向上にもつながる。
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