背景の液晶画面を見つめながら、レンズ越しに被写体のいい表情を探す。言葉に迷いながら話かける。
質問を返され、どうすれば質問の意図が相手に伝わるのか考える。言葉を選び、表現を変えて問いかけ直す。
たどたどしい手つきで始めたタイピング。聞いた熱意はどうやったら読み手に伝わるか。決められた紙幅の文字量じゃ足りない……。何度も消しては埋め直す。
8月、大槌と大船渡で仮設住宅に入居した人たちを対象とした新聞が発行された。A3 サイズ2ページ。新聞は各地域の仮設住宅に個別配布されている。
編集兼記者は、(写真右から)大槌の中村さん、木村さん、大船渡の澤口さん、高石さんの4 人。全員、未経験からの新しいスタート。原稿を書いたこともなければ、見出しをつけたことも、デザインを組んだこともない。写真こそ普段の生活で撮ったことはあるが仕事としてではない。この4人が新聞の編集者・記者になったのは支援員の仕事をしている中で、上司にあたる人たちから誘われたのがきっかけ。
新しい取り組みであるだけに、不安も小さくない。企画の立て方や取材の仕方も手探り。伝えたいことをうまく表現できずに悩んだりもする。でも、4人全員が「楽しい」と話す。仮設住宅の支援員の活動を紹介する文章は語りかけるように、紹介記事では取材者の語り口調や方言を活かす。その他のイベント告知でも地域の人たちの参加に繋がるようにと工夫を凝らしている。
……何もかもが初めて。それが、プロから数回の手ほどきを受けながら、最初の2号は「補助輪付き」で作り始め、3号目からは自分たちだけで制作するにいたった。彼女たちは、これからも毎月思いを形にしていく使命であり、仕事であり、意欲と向き合い、地域を元気づけていくのだと思う。取材中に見せる彼女たちの笑顔、制作研修中の意欲にあふれたまなざしは印象的だった。
大槌版は『イトヨ便り』、大船渡版は『はまらい』。
地域に根ざした親しみのある言葉から……と彼女たちから発案されたものだ。
イトヨは、大槌町指定の天然記念物の魚。今回の津波で絶滅の心配がされていたが、減水川の源流で生息が確認された。種によって、稚魚のときに川を下り海に出て、成長したら川をさかのぼって故郷に帰ってくる復興を象徴するような魚だ。
はまらいは、寄っておいで!を意味する東北の呼びかけの方言。「はまらい、はまらい」……。おいで、おいで……。人と人のつながりを大切にしていきたいという思いがある。
写真・文=岐部淳一郎
この記事は「東北復興新聞」から転載しました。
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