2004年に刊行された「小学校中退、大学卒業 ー新・学問のすすめー」(花柳幻舟・明石書店)を紹介する。本書は、小学校中退という異色の経歴を持つ創作舞踊家の花柳幻舟さん(生年月日非公表)が通信制の放送大学を9年かけて卒業するまでの奮闘記を描いたノンフィクションである。
幻舟さんは、旅役者の娘として生まれ、父親と共に西日本を廻る生活を送っていた。
周囲からは旅芸人の娘という理由で、いじめを受け、小学校低学年で学校に行かなくなる。その後、ホステス、建設省など学歴を詐称して様々な職業に就き、父親の死後、18歳以上なら誰でも学ぶことができる「放送大学」に入学した。
幻舟さんは、単に学歴を取得するだけではなく、子供の頃に受けた心の傷を自分で癒し、劣等感や疎外感を取り払うため、放送大学に入学することを決意した。
本書の見どころは、幻舟さんが経験した放送大学での学生生活だ。他の大学とは違い、通信制大学ならではの良い点や苦労が多く書かれている。放送大学は一般教養科目の所定の単位数を取得すれば大学入学資格を得れるシステムがある。そのシステムを活用し、小卒である幻舟さんは1年かけて大学入学資格を得た。
テレビ、ラジオなどを視聴して授業を受ける「放送授業」は活弁を聞かされるような面白さにあふれ、学ぶ意欲をそそるような講義だそうだ。小卒である幻舟さんは、大学の授業に必死でついていくため、小学2、3年生用の「算数」のプリントなどを活用し、基礎的、体型的な勉強を自分で身につけた。
実際に大学で授業を受ける「面接授業」は、受講者が自分のお金で学費を払っているため、熱心に授業を受ける学生が非常に多い。遅刻をして、不真面目な態度をとる講師の授業は、受講生がだんだんと減っていき、受講した学生から厳しい意見を言われるほど、熱心に学問に打ち込む学生には心が打たれたという。
幻舟さんは放送大学の勉強を中断し、司法試験にも挑戦した。試験に合格することは叶わなかったものの、司法試験の猛勉強は、幻舟さんに大きく揺るぎない自信と誇りを与えたそうだ。
幻舟さんは放送大学で学んだことにより、「学校教育と教養は違う」「無知と無学は全く別だ」「学問と学校制度は同じではない」などを強く再認識できたそうだ。
幻舟さんは様々な人にこの本を読んでもらいたいと本書で語る。人生は一本道ではなく、複数の選択肢があること。過去に囚われるのではなく、その経験を生かし、前に進んでほしいという強いメッセージが本書に込められている。
学歴とは何か、そして、学問の本質を問いつめた1冊だ。教育分野に携わる方はぜひ本書を読んでいただきたい。(オルタナS特派員=高橋一彰)
・『小学校中退、大学卒業ー新・学問のすすめー』(花柳幻舟・明石書店)
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