2006年に刊行された『安心して絶望できる人生』(向谷地生良・生活人新書)を紹介する。本書は北海道浦河町の福祉支援施設である「べてるの家」を舞台に、精神病などを抱えた人たちが、自分の病気を自分自身で研究し、助け方を見つける「当事者研究」の紹介を中心とした内容となっている。
べてるの家は、1984年に精神障害などを抱えた当事者の地域活動拠点として設立され、現在は精神病患者だけでなくいろいろな病を抱えた人たちが社会で自立するため活動する福祉支援施設である。
元々、1978年に浦河赤十字病院の精神科を利用する患者数名の回復者クラブの活動から始まり、浦河教会の旧会堂で共に生活をしながら、日高昆布の産地直送などの起業を通じ、社会進出を目指すという試みから誕生した。
べてるの家でおこなわれている「当事者研究」とは、自分の抱えている病気を自分自身で分析し、同じ問題を抱える仲間とそのメカニズムを考え、自分で対処方法を見つけ、自分自身を助けるプログラムである。
べてるの家のメンバーである千高のぞみさんは就職試験に落ちたのをきっかけに高校卒業直後に統合失調症を患い、ひきこもり、入院生活を経て、べてるの家に行き着いた。
千高さんは多くの幻聴に悩まされていたが、当事者研究により、知り合いのスタッフに電話をして周囲に助けを求め、自分の幻聴を退治するといったユニークな方法を見つけ、自分の抱える問題に対応する手段を見つけた。
「偏見差別大歓迎」「苦労を取り戻す」「弱さを絆に」といった他では聞き慣れないユニークな言葉がこの本には多く書かれている。弱さや短所、欠点といったありのままの自分を受け入れる彼らの生き方や思想はこれからの時代に必要となるかもしれない。(オルタナS特派員=高橋一彰)