「本を読むことで子どもたちは世界とのつながりを感じていられる」――タイ国境ミャンマー(ビルマ)難民キャンプに暮らす人々は、基本的にその敷地外へ出ることができない。国境沿いの難民キャンプ9箇所中7箇所ではネット環境も制限されている。(公社)シャンティ国際ボランティア協会は難民キャンプで唯一の情報源とされる図書館の存続を賭け、現在クラウドファンディングに挑戦中だ。(Readyfor支局=浦田 優奈)

日々膨大な情報が行き交う時代になった。

テレビ、ラジオ、新聞といったマスメディアに加え、近年インターネットやスマートフォンの普及が著しい。周囲には常に情報が溢れており、欲しい情報を自ら探すのが当たり前、多くの人がそんな生活を送っているのではないだろうか。

ところが、この地球上にはそう簡単に情報収集ができない環境もある。その一つがタイ国境の「ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ」だ。難民キャンプに暮らす人々は基本的にその敷地の外へ出ることはできない。ましてや、国境沿いの難民キャンプ9箇所中7箇所ではネット環境も制限されている。

そんな環境で暮らす彼らにとって、特に子どもたちとって、唯一の情報源は、図書館にある「本」なのだ。彼らは、本を読むことだけで、「世界と繋がっている」のだという。

※シャンティ国際ボランティア会は、クラウドファンディングサービス・Readyforによる国際協力活動応援プログラム「Readyfor VOYAGE」でクラウドファンディングに挑戦中です!ご支援の受付は6月29日(金)23時まで!
<詳しくはこちら(https://readyfor.jp/projects/2018brc)から>

誰かの真似ではなく、自分で切り開いていきたい

(公社)シャンティ国際ボランティア会(以下、シャンティ)は、1981年の設立以来、アジアにおいて教育・文化支援や緊急救援の活動を行ってきた国際協力団体だ。

現在、その一員として活動を行う菊池礼乃(あやの)さんも、学生時代から国際協力へ強い関心を抱いていた。2006年に大学を卒業し、社会経験を積むために一般企業に就職した。2年半ほどで退職し、本格的に国際協力への道に進むことに決めた。

学生時代から、一般企業で数年働いたら国際協力の道に行き、20代のうちに開発途上国で働こうと決めていた菊池さん。だが、実際に会社を辞めた時には、「人生のレールから大きく外れてしまった」と不安を抱いたと明かす。

しかし、「一回きりの人生、誰かの真似をするのではなく、自分の力で切り開いていこうと思った」と活動の裏に隠された強い想いを口にした。

キャンプの人たちが図書館を運営していけるようにサポートするのが、菊池さんの仕事写真:© Yoshifumi Kawabata

■現場で活動することの難しさ

シャンティがタイ国境ミャンマー(ビルマ)難民キャンプに図書館を設立したのは2000年。以来図書館は、現地の人々の心の拠り所として重要な役割を担ってきた。

菊池さんがこの図書館に関わるようになったのはその11年後、2011年からである。難民キャンプでの活動は、思い描いていたようにはいかなかったと振り返る。

「大学院を出てシャンティに入ったときは、自分にはいろんなことができると思っていたのですが、現場に出てみるとそんなことはありませんでした。現地に赴任してすぐ、難民キャンプで年配の方に『ミャンマーの歴史を知っているのか!』と問われ、満足に答えられなかったことを今でも鮮明に覚えています。初めは頭でっかちになっていたのだと思います。こうした経験から、その土地にはその人たちの文化や歴史が存在するのだから、真摯に学び、関わり方を考えなければならないと実感しました」

読み聞かせの様子 写真:© Yoshifumi Kawabata

当初は、図書館に関わる仕事にシャンティが積極的に関わっていたが、現在は現地の人々が中心となり運営されている。菊池さんは、活動を行う中で、課題解決はあくまで当事者が行うべきであり、自分たちはサポートや気づきを与えることが役割だと気付かされたと話す。

■支援が減る中…「図書館」こそ、彼らの支えになる

18年という時を経て今や必要不可欠な存在になった図書館だが、今、存続の危機に立たされている。ここ数年、ミャンマー国内の政治状況が変化し、2011年当時は20団体あった国際NGOの数も、現在では13団体に減るなど、タイ国境の難民キャンプに対する国際支援が著しく減少しているのだ。現在13団体が支援をしているとはいうものの、どの団体も事業縮小の方向にあり、難民キャンプの人々は日々不安を感じながら生活している。

しかし、こうした状況においてこそ、図書館は彼らの支えになっているのだ。図書館は情報が少ない難民キャンプにおいて唯一世界とのつながりを持つ場になるだけでなく、住民同士のコミュニケーションの場にもなりうるからだ。

図書館は、単に本を読むだけの場所ではない 写真:© Yoshifumi Kawabata

時間をかけて構築してきた信頼関係。いまでは『図書館こそ子どもたちの力になる場所だ。難民キャンプがなくなる日までここにあって欲しい』という声が上がるほど、図書館は彼らにとって欠かせない場になっている。

図書館に関わることで彼らを支えることができると信じ、それに真摯に関わっていきたいと菊池さんは話して下さった。

■「図書館」が少年の未来を切り開いた

菊池さんに図書館の重要性を再認識させた一人の少年がいる。メラマルアン難民キャンプに住んでいたシーショーくんだ。

「図書館で自分のやりたいことを見つけ、将来にも繋がったという少年がいます。彼は、小さい頃から絵本に書かれている絵を書き写すのが好きでした。多くの絵本を繰り返し読んでいました。彼は、2009年にシャンティの絵本コンテストに自分の絵を応募したところ、入選したのです。それを機に自信を持つようになり、第三国定住先の大学で芸術について学ぶことになりました。時が経って2017年1月、ちょうど大学の卒業を控えた彼から、シャンティ宛にFacebookを通じて、『今の自分の全ては図書館から始まった』というお礼の言葉が送られてきたのです!図書館が少年の夢を後押ししているのだと実感でき、とても嬉しかったです」

シーショーくんのように、子どもたちには本を読んで(見て)ワクワクしたり、感動を覚えたり、といった経験をたくさんして欲しいと菊池さんは話す

文化的アイデンティティの確立こそが難民問題解決への道のり

紛争などを背景に難民となった彼らは、長らく難民キャンプでの生活を余儀無くされている。必要な支援は、衣食住といった最低限の生活レベルを満たすことだと答える人は少なくないだろう。一方、シャンティでは彼らの文化的アイデンティティの確立こそが大事だと考えている。

「私たちは、難民問題とは人間の尊厳の問題だと考えています。国を追われ、新しい土地で生活をせねばならず、自分たちの文化が途切れてしまう可能性もありますが、人が人間らしく行きていくためには、本を通して彼らの言語、文化、そしてアイデンティティを紡いでいくことが大切だと考えています」

そう語る菊池さんたちは、年配の方からその民族で語り継がれてきた昔話を集め、それを子どもたちに読み聞かせるといった活動を積極的に行っている。母語で書かれた本の出版、民話の相続をはじめとする言語や文化の継承に繋げているのだ。

このように、難民キャンプの図書館は、知識を身につけたり、先人の知恵を身につけたり、文化や言語を受け継ぐ重要なコミュニティとして、大きな役割を果たしている。

「安心できる場所をつくる」、「人を育てる」、「本を読む機会を提供する」。これがシャンティ国際ボランティア会の活動の3本柱 写真:© Yoshifumi Kawabata

クラウドファンディングで目標を達成し、「図書館」をよりよくしたい

図書館活動には3つの柱が存在する。「安心できる場所をつくる」(建物として)、「本を読む機会を提供する」(本を含むものの提供)、「人を育てる」の3つである。

今回のクラウドファンディングを通じて集めた資金は、図書館の建物の修繕、図書館の本や資材の購入、毎月行われている図書館員同士の技術交換会といった3本の柱に使用される予定だという。
 
「すでに多くの方にご支援をいただいており、感謝の気持ちでいっぱいです。誰にとっても自分が安心して過ごせる場所、自由を感じ、世界と繋がっていると実感する場所はあると思います。タイ国境の難民キャンプでは、コミュニティ図書館が、子どもや多くの住民にとってそういう場所になっています。その図書館を続けて行くためにぜひみなさまにご協力いただきたいと思っています!」

日本に暮らしているとなかなか身近に感じることのない難民問題。この活動について知ったことを機に、難民問題について考え、彼らの状況をもっと身近に感じてほしい、と菊池さんは強調した。

6月20日は世界難民デーだ。こうしたイベントをきっかけに難民問題について考えてみることも、現代社会に生きる我々にとって大切なことではないだろうか。

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寄付の受付は6月29日23時まで!是非、下記の画像をクリックして、挑戦をご覧ください。


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