本書の原著は、2008年7月に国連開発計画(UNDP)が刊行している。途上国で貧困層を対象とした斬新なビジネスモデルを構築し、経済的利益と社会的利益を両立した50事例を分析。その上で、BOP市場開拓の課題と戦略を提起する。

今回和訳が刊行された背景を、UNDP東京事務所で広報・市民社会担当官を務める西にし郡ごおり俊哉氏は「日本企業の間でも、途上国で市場開拓しながら社会課題の解決にも寄与するビジネスモデルへの関心が高まっているため」と説明する。

本書は、理論が勝り気味な国連の出版物の中にあって、途上国の貧困層向けビジネスに共通する課題をインフラ・労働力・技術・政策・金融にまとめ、それぞれの課題解決に有効な5つの戦略を色分けされたマトリックスを使って明快に提示。経済開発の視点で書かれた実践的な内容が好評を博している。

「リーマン・ショックは企業にとって、本業に回帰・集中し、かつ視線を海外に向けさせる転換点だった。コアビジネスを通じた開発課題の解決と経済成長の両立が、これからの新しいビジネスモデルになるだろう」と西郡氏は展望する。 企業がBOPに打って出る上で、本書は戦略を練るための「虎の巻」と言えそうだ。(聞き手・斉藤円華)