今までの価値観が大きく変化しようとしている昨今。様々な困難を乗り越えながら家族と共に人生を歩んできた佐々木常夫さんに「今、若者に伝えたいこと」を聞いた。(聞き手:オルタナS 大下ショヘル)

撮影/伊藤吉幸

 

東レ経営研究所社長を経て現在は同研究所特別顧問。
自閉症の長男と次男、次女の3人の子供に恵まれるが、課長に就任した40歳の時に妻が肝臓病を患い、入退院を繰り返す中でうつ病も併発するようになる。その後妻は3度の自殺未遂をおこすなど多くの苦難の時を経験する。度重なる転勤など仕事の忙しさに追われながらも、家事・看病をこなすために仕事の効率化を極め、数々の大事業を成し遂てげきた。
昨年出版の「働く君に贈る25の言葉」が35万部を超える大ベストセラー。

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学生時代は一生懸命に遊べ、そして感動を

 

--大学時代、佐々木さんはどのような学生でしたか?
東京大学経済学部に入学後、最初の2年間はとにかく遊んでいた。大学生は余裕を得るための期間だとおもっている。高校卒業後に就職すると働くことに熱中しがちだが、大学4年間のうちに遊ぶことで社会に出てから余裕ができるようになる。

 

だが、酒を飲んだりすることが目的となってはいけない。

 

飲みながら話すことで相手を知ることができる。部活に熱中することでコミュニケーション能力が鍛えられる。同様に映画や本も中身を選んで読むべきだ。こうした経験で心から感動できるのは若いうちだけだ。同じことでも30を超えてしまうと半減してしまう。

 

--社会人になってから、たくさん稼ぎたい、高い地位に登りつめたいという気持ちはありましたか。

 

お金を稼ぎたい、出世したいというのは若いうちはみんなが思うこと。自分もそうだった。そうした欲を捨てる必要はない。しかし、欲だけでは仕事は上手くいかない。相手への配慮も一緒に持ち合わせることが大切なのだ。欲と相手への配慮が両立したとき欲は志になる。

 

僕が部下を見ていて、彼らの幸せそうな姿を見るのは、彼らが成長している時です。彼らの成長は自分に返ってくる。自分が幸せを感じられる。だから彼らのために何ができるか、というスタンスでいつも彼らと仕事をしているのです。

 

--出世したいと思わない、給料もそこそこでいいと言う若者も多くいます。世間では安定志向と揶揄されることも少なくないですが。

 

それはそれで構わない。僕が就職した高度経済成長期の頃は、いくつで課長になって、いくらの給料がもらえるかだいたい目安があった。だけど、今はいつ仕事を失うか分からない。それは大きな会社であっても。将来が想像できない、そんな状況で出世したいと思わないのは当たり前。だからそのことは悲観していない。自分の人生を決めるのは自分。誰も文句なんか言わない。本人が満足する人生を歩めばいい。

 

撮影/伊藤吉幸

経済の良し悪しなんか気にするな

 

--それにしてもリーマン・ショック以降なかなか景気がもどらず、その上に3月の大震災。明るい未来が描きづらい人も多いと思いますが、どのようにお考えですか?

 

幸せというのは定規のような目盛りで図れるものではない。給料が高いとか、出世したといったことは幸せの基準にはなりえない。還暦を越え、回りの人間を見ていると、経済的に豊かでなくても幸福感に満ち足りている人はたくさんいる。
最近、日本のGDPが中国に抜かれ世界第3位になったことがマスコミで頻繁に取り上げられていたが心配することは何もない。中国のような急な経済成長は格差が広げるだけ。返り咲く必要もない。また、脱原発の話も同様。原発がないと経済が戻らないというが、電気など無くても十分に生活できる。それで十分幸せじゃないか。

 

--最近の若い人に関して何か思うところはありますか?

ある人が、最近の若い人は上司と飲みに行きたがらない、と言っていた。しかし、飲みに行っても上司の愚痴を聞かされ、割り勘にされた日には誰だって行きたくなくなる。飲みに行かないのは当然だ。

 

私なんかは若い女性社員に「今度いつ飲みに連れってってくれるんですか」と聞かれ、最近はなかなか忙しいので少し困っている。しかし、こう言ってもらえるのは僕がいつも飲みに行くと、8割は部下の話しを聞くようにしているからだと思う。もちろん奢りで。リーダーというのは、仲間から一緒に働きたいと思わせなければならない。

 

「最近の若い人は・・・」というのは違う。その前に上司が自分のことを見つめ直すべきなのだ。

 

--幼い頃に父親を失い、母の手一つで育てられた佐々木さん。結婚後は長男が自閉症を、奥さんはうつ病に苦しみ3度にわたり自殺未遂を繰り返すなど苦難の時を何度も経験したと思いますが苦しくなかったのですか?

 

確かに色々と辛かったことも多かった。だけどこれも「運命」だと思った。人生において誰と出会い、苦しみ、喜ぶかはすべて決まっている。だから運命であると受け入れて、子供と妻を精一杯守らなければいけないと覚悟した。そもそも自分が結婚し、自分が生んだ子供なのだから、家族を守らずして何を守るのかと考えていたと思う。

 

最近ある取材で妻が「夫には親の何倍もの愛を自分はもらった」と答えていた。これほど嬉しいことはない。

 

--これは運命だからしょうがない、というあきらめではなく、覚悟をもって、愛をもって行動すれば自分に返ってくるわけですね。

先輩が上手く仕事をしていれば真似をするべき

--本の中で「プアなイノベーション(創造)より優れたイミテーション(模倣)」とおっしゃってますが、個性を強調するよう求められてきた今の学生はどうするべきですか?

優れたイミテーションが求められるのはあくまで仕事上の話。仕事を効率的にする上で、下手に自分のやり方を通すのではなく他の人がもっと上手く仕事をしているのであれば、それは取り入れるべきということ。一方で個性というのは人格のことで、そっちはイミテーションの範疇ではない。とは言っても、仕事ができるようになり、出世し、様々な人と関わるようになれば視野が広がる。そこで人間として成長することはあると思う。

(オルタナS編集部=大下ショヘル)