エシカルファッションジャパン(以下EFJ)とオルタナSは8月30日、「ファッションと動物の共生」をテーマにしたイベントを開催した。「ファー」に関するワークショップを行い、エシカルな視点でファッションを考えた。(オルタナS副編集長=池田真隆)

会場には、エシカルファッションに興味を持つ参加者約20人が訪れた

■ファーの歴史

古くから人間は動物を狩り、肉を食べ、骨や皮を生きるために利用してきた。ファッションでも例外ではない。ファーだけでなく、レザーにカシミアにウール、シルクも全て動物から作られている。

ファーの歴史は古く、現在見つかっている世界最古の衣服も、ヨーロッパ・アルプスで発見された約5000年前のものだ。毛皮の服に、草で編んだマント、底が革でできた靴を身につけていた。

ファーは防寒には最高の素材だ。それは、刺し毛と綿毛の二重構造になっていて、暖かい空気が層を作っているからである。毛皮は本来動物の身体を一生守るものなので、耐久性も非常に優れており、ケアを続ければ、長く使い続けることができる。天然素材ならではの柔らかな感触、そして立体的な光沢も魅力の一つだ。

それゆえに、古代エジプトやローマ時代には、権力の象徴、ステータスシンボルとして毛皮は活用されてきた。ロシアのシベリア進出は、クロテンの毛皮を求めて行われたものであり、新大陸のインディアンとの交易にもビーバーの毛皮が多く求められた。中国でも、北方民族に大量の毛皮を朝貢させていた。

しかし、毛皮を求める動きが過剰に進みだすと、どんどん動物たちにしわよせがいくようになってしまう。乱獲による種の絶滅が起きる。毛皮のために消えていった動物は、ブルーバック、シマワラビー、オオウミガラスなど多くいる。

20世紀以降、狩猟による毛皮の採取が減少すると、飼育場で生産されるようになる。飼育が簡単なウサギとキツネの養殖が始まり、少し遅れてミンクの養殖が始まる。

現在、全リアルファーのうち85%が養殖されたものと発表されている。ヨーロッパと北アメリカが最大の供給者で、日本はフィンランドから未加工の毛皮を最も多く輸入している。

EFJ代表の竹村伊央さん

■リアルファーのメリット・デメリット

リアルファーの魅力は、やはり長く使えることだ。祖母の代から3世代にわたって使うということも珍しくない。多少使えないところが出てきても、リメイクして使って楽しむこともできる。一つのアイテムを長く大切に使う、というのもエシカルである一つの重要な要素だ。また天然繊維であるため、生分解性があります。土に埋めても地球に還る素材である。

日本にも入ってくる養殖ファーの問題点としては、「毛皮のために生まれ、育てられ、死んでいく」という点だ。動物にとって生きる権利が与えられていない。日本では毛皮を着こまないと凍死するという天候はないが、それでも、リアルファーを求めるということは、動物の命を人間が一方的に掌握し、それを着ていると言うこともできる。

様々な規定・検査を守り運営している農場もあれば、そうではない農場もある。多く報道されている中国での虐待以外にも、例えば2009年、ロイター通信によると、ノルウェーでも動物愛護団体の調査の結果、一部の飼育場で脚や耳をちぎり取られた動物が放置されるといった行為があったと発表された。ノルウェーにある330の飼育場のうち、45のフォックスとミンクの飼育場で虐待行為が確認された。フェイクファーもある時代に、リアルファーでなければならない意味というのは何なのだろうか。

動物の命に関する観点以外にも、有害な薬物の投与や、遺体を放置することで富栄養化による環境汚染も問題として挙げられる。さらに、飼育に必要な餌のエネルギーコストが莫大という点もある。

最近発表されたオランダの研究所の発表によると、温室効果ガスの排出量に換算すると、リアルファーはフェイクファーに比べて4〜5倍もの環境負荷がかかっていると分かった。これはほとんどが餌にかかるエネルギーコストだという。

ただし、リアルファー農場も動物の命をファーのためだけに使うということは考えていない。皮を剥いだあとの肉は動物園や漁業の餌にし、脂肪部分は工業用のオイルにする。特に、オーガニック農法の飼料としても活用されるものも多い(アメリカやカナダのファー団体の発表)。一概に、「毛皮のためだけ」でもないのだ。

(養殖された)85%以外の、狩りによって得られているリアルファーに関しては、免許を持って規定の範囲内でハンターが狩りをしたものである。それは、森の中の適切な個体数を保持し、生態系の維持に貢献しているという側面もある。ただし、それは自然な淘汰ではない。

■フェイクファーのメリット・デメリット

フェイクファーは動物を殺さないので自然の生態系を守ることになるが、主に石油系のアクリル繊維(またはポリエステル繊維)からできている。これは染料も石油系だ。なので、これを製造することによって環境が壊れてしまえば、「動物の命は守っても、自然が失われては元も子もない」ということになる。

特に、排水の処理に最大のコストがかかっている。最大の合繊輸出国である中国は2011年からのグリーンピースによる調査で、繊維工場の周辺で有害物質の検出が確認された。発がん性のあるアゾ系やホルモンに悪影響をおよぼす界面活性剤の一種、ノニルフェノールエトキシレートなどだ。

日本のフェイクファーは品質も世界的にハイレベルだが、フェイクファーを作っている側からすると、そもそも環境という観点から作ってないというところもある。フェイクファーをエコファーと呼ぶこともあるが、「そっちのほうが響きがいいから。全然大差はない」という意見も。

■あなたが考えるエシカルファッションとは

以上のレクチャーの後、以下の4つの中から、「あなたが思う一番エシカルな服はどれか?」を選ぶワークショップが行われた。

①基準を満たした農場で生育された動物のリアルファーを使用している。
②国産のフェイクファー。ただし、排水設備に難のある工場で染められている。
③ヴィンテージのリアルファーをリメイクしたもの。ただし、ファーは絶滅した動物のもの。
④中国産のフェイクファー。質がいまいちですぐ毛が抜け、ワンシーズンで着られなくなりそう。

ワークショップに参加したインヒールズ共同代表の岡田有加さん(写真奥)

2012年、パリで開催されたエシカルファッションショーで優勝した志賀亮太さんも登壇した

会場内にいた約9割の人が③と答えた。

■ワークショップに参加した人たちの声

時岡碧さん(日本女子大学4年、エシカルジュエリーHASUNAでインターン中であり、白木夏子代表の秘書を務める)
回答③
「すでに絶滅してしまった動物なので、使えるものは使いたい」

葭内ありささん(お茶の水女子大学附属高等学校家庭科教諭、同大学非常勤講師)
回答③
「着ることで、もうこの動物は存在していないというメッセージを送ることができるから」

長井英明さん(NPO法人アニマルライツセンター)
回答③
「命が新たに奪われないから」

会場の多くが③と答えたが、この流れに警笛を鳴らす意見も出た。エシカルファッションブランドインヒールズの共同代表を務める岡田有加さんだ。「絶滅しているからといって③を着ることが、かっこいいという風潮になると、また動物が殺されてしまう。だとしたら②の方がエシカルではないか。排水設備に難があるといっても、国産の工場なので、(インドや中国に比べて)規模は小さいし、日本の技術なら改善できるのでは」。

動物の命を考えるのか、環境全体を考えるのか、そしてそれをどのように組み合わせていくのが最も現実的なエシカルへの道なのか。さて、あなたは何番がエシカルだと考えるだろうか。