鹿児島県種子島は、人口約3万5千人。種子島は西之表市、中種子町、南種子町の1市 2町からなる。その西之表市には市立図書館がある。約5万冊の蔵書があり、児童向けの本は約1万8千冊蔵書している。児童クラブと子育て支援センターが入っており、郷土資料室も備わっている。そして市立図書館には、市内各地域を巡回する移動図書館車がある。約2千7百冊の本を蔵書しリクエストも行っている。図書館内を一通り案内された後、図書館の現状について話を聞いた。(武蔵大学社会学部松本ゼミ支局=髙野橋 夏織)
図書館の年間利用者数は約1万6千人。年間貸し出し数は約2万7千冊。利用者層は平日の午前は高齢者、夕方や長期休みの期間は児童、児童クラブ帰りの親子連れ、中高生が利用している。
地域の課題解決についての蔵書収集を積極的に行いたくても予算が足りないため、その都度注文する形を取っている。職員が人々の興味関心を予測し、本を並べていくことが理想だが、なかなか難しいのが現状だ。郷土資料の保存環境にも手が回せていない。
子供の読書活動推進として学校と連携し、社会科見学の受け入れを行っている。年間200人程度の児童が訪れる。貸出体験や読み聞かせを行ってもらい、少しでも本に親しみを持ってもらえるように図書館の利用促進を心掛けている。
また、毎月各小学校に50冊ずつ送っている。希望する学校には移動図書館車による貸し出しも行う。その時の選書は、気軽に本に触れてもらうために子どもが楽しめる本を中心に行っている。乳幼児には3カ月健診時に本を一冊プレゼントするという取り組みを行う。学校の司書とは図書館協議会を通じて連携を図っている。
住民の図書館サービスに対するニーズで最も多いのは、蔵書の検索サービス。都会の図書館にはほとんどあるこのサービスを、市立図書館では取り入れることができていない。
そのため本を探すにも職員に直接聞かなくてはならない。島外からの移住者が多い種子島では蔵書検索サービスがないことで不便さを与えている。自ら目録を検索したり、本の予約ができるようにしたいという住民の声が多く寄せられているという。
移動図書館車は、月に3回それぞれ違うコースで巡回している。コースは小学校の校区に沿って決める。夏休み限定で他の地域の児童クラブへの巡回を行う。職員も一人乗り読み聞かせや貸し出しも行っている。移動図書館車が回る日程は、事前に広報や市のホームページに載せて市民に伝えている。3年ほど前から積極的に老人福祉施設と知的障害者施設への巡回も行う。
普段あまり本を借りる機会がないと考えて巡回を始めた。本に触れる機会が少ないため、あまり関心を持ってもらえないかと心配していたが、紙芝居や昔話や花に関する本を嬉しそうに借りていく人がいて安心したと語っていた。
また、施設で働く職員も気分転換に最適だと借りていく人もいる。
本を借りるには種子島に住所を移さなくてはならない。しかし、種子島には短期滞在のため住所を移さない人々がいる。その人々のために移動図書館車にはリサイクルコーナーが設けられている。不要になった本や寄贈された本の中で同じものが何冊かある本を自由に持ち帰りができる。
図書館が抱える最大の課題は利用者を増やしていくことでだ。まだ図書館を利用していない人々にも利用してもらい、特に中高生の利用者を増やしていきたいそうだ。しかし、学習室の利用は多いが、本を借りていくことはあまりないので中高生にも本に関心をもってもらいたいという。未返却本の回収や建物の老朽化問題も課題のうちの一つである。
種子島という孤島の図書館では、都会の図書館のようにオンラインサービスが発達していない。その代わりに移動図書館車で巡回し人々に本に親しんでもらおうという工夫がされていた。
移動図書館車で巡回することにより、住民の声を直接聞くことができることは施設を運営するにあたって貴重なことである。住民との密着度については都会の図書館より優れているのではないかと感じた。中高生が本に関心のないことは種子島だけでなくそのほかの地域にも言える問題なのではないだろうか。
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