大学卒業後の進路未決定者は、大卒者の16%を占め、年間10万人に上る。生産年齢人口が減る中で、既卒未就業者の就労支援は喫緊の社会課題となっている。このような状況で、リクルートは動き出した。同社が展開する「ホンキの就職」では、新卒、既卒にかかわらず全ての若者に無料で就労支援を行う。2011年から始まり、これまでに7500人以上が参加、現在では、参加者の約半数がプログラムから3カ月後に内定を獲得、という実績を記録する。同社では、就職活動がうまくいかない原因を3つに特定し、これらの原因を改善できるようサポートしている。(オルタナS副編集長=池田真隆)
■課題を特定し、対策を打つ
リクルートホールディングスCSR担当者の守冨裕氏によると、ホンキの就職では、就職活動がうまくいかない原因を大きく3つに分類していると言う。「偏った業種イメージ」「行動量の少なさ」「面接スキルの欠如」だ。これらの課題に対して、同社では2つの就活支援プログラムを展開している。
1つ目は、1Dayセミナーという、自己PRと面接に特化したプログラムだ。まず、セミナー冒頭で自己診断シートを使い、これまでの就職活動でどこが悪かったのかを自分自身で振り返る。次にグループワークを行いながら、上記に記載した「就職活動がうまくいかない3つの理由」を学び、自身の課題がどこに該当しているのかを確認する。
課題を特定したら、最後は面接練習を通して、改善していく。面接練習では、面接担当者役も体験するので、採用者側の視点も得ることができるのが特徴だ。
2つ目は、4日間をかけて行う4Daysグループワークだ。自己PRと面接だけではなく、就職活動の基本から応用までを身につけたい人に向けたプログラムになっている。このプログラムの冒頭では、ツールを使って自己分析と適職診断を行う。自分の強みと、強みを活かせる職種を知ったら、仲間とお互いの強みを確認し合い、志望動機と自己PRを考える。後は、考えた内容を面接担当者に伝わるよう、何度も反復練習を行う。
守冨氏は、ホンキの就職が考える内定を得るポイントとして、「課題を特定して、対策を打つこと」を挙げる。「特に4日間をかけて行うプログラムは長丁場になるので、自身でPDCAを回すことで、立ち止まらないような工夫をしています。自身と同じ環境にいるセミナー参加者の仲間が内定獲得までお互いに伴走する形になるので、途中で自信を失うこともなく、最後まで自発的に行動できることも行動量が減っていかないという点でポイントではないでしょうか。」とホンキの就職の仕組みを話す。
■外部団体と連携を取りながら、より広い支援を目指す
昨今では、数百件の会社にエントリーしたが全て失敗し、「自分は必要とされない存在」と落ち込み、就職を諦めてしまう若者も見受けられるようになった。守冨氏は「就職支援がリクルート創業当初からの事業であり、この領域の当事者であり続けたいと考えています。1人でも多くの若者が就職でき、自らの力で成長していける社会を実現していきたい」とホンキの就職のスタンスを語った。
ホンキの就職プログラムは同社内でも行っているが、より多くの若者に受講してもらいたい、という想いにより、NPO21団体、大学40校と連携しプログラム内容を提供している。同時に、同社では若者の就職支援ができる大人の育成にも力を入れており、外部団体の職員に対して、ファシリテーター*養成講座も行う。その結果、現在までで、全国に39人のファシリテーターが生まれた。
※ホンキの就職は講義形式ではなくグループワーク形式のため「講師」は存在せず、参加者の自発的行動を促す「ファシリテーター」がプログラムを進める
年間約3000人のひきこもりやニートなどの若年無業者の就労支援を行うNPO法人「育てあげ」ネットでは2012年からホンキの就職と連携を始め、以来、無業者からの有業者率が約10倍に伸びた。工藤啓理事長は、「もともと、無業者の方の『行動を起こす』までを支援していましたが、連携したことで、『就労』の部分も一貫して支援できるようになりました」と話す。
同様に連携している共立女子大学/共立女子短期大学・就職進路課の石川昌宏課長は、「就職課ではスタッフから学生へアドバイスする場面が多くありますが、ホンキの就職を導入することによって、スタッフのアドバイスにもブレない一つの方向性が生まれたように感じています」と手応えを話す。
■ホンキの就職でしか得られないものとは
就職関連本やセミナーは多くあるが、ホンキの就職でしか得られないことは何かとの質問に守冨氏は、「自己分析などを通じて納得感をもって応募業界や職種の幅を拡げられること。そして企業が求めている人物像と自分がマッチングするかどうか、を徹底的に考える方法を知れること」だと答えた。
「ただやみくもに、『コミュニケーション能力が高い』、『面倒見が良い』、『明るい』、という学生目線での強みをエピソードを交えてアピールすることは推奨していません。幹部候補生という求人であれば、過去の経験で培った『リーダーシップ力』や『マネジメント力』をエピソードで裏付けしながら伝えることが求められるし、海外勤務が考えられる総合職であれば、『阿吽の呼吸が通じない環境での問題解決力』を伝えることが求められます。求人企業それぞれで求人要件、職務要件は異なるので、よく理解して『その企業はどんな人を求めているか』『自分はその要件に合っているか』という問いに、より具体的に答えられるように練習していきます」(ホンキの就職の考え方を話す守冨氏)
このようなプログラムの結果、ホンキの就職から就職した者は離職率も低い。「離職率が高ければ無理矢理就職させているだけになってしまう」という懸念より、2012年秋に、内定獲得後1年以上経過した者のうち200人にインタビューをしたところ、約8割が1年経過後も仕事を続けていることが判明したのだ。
目指すは、全ての若者がイキイキと働ける社会の実現だ。そのために、就職活動を支援している団体の協力も求めている。
「就職活動をされている方、支援している方、どちらの『ホンキ』も応援しています。就職活動をされている方にはぜひセミナーを受講してほしいですし、大学の就職課やキャリアセンター、就労支援を行うNPOの方々には、ホンキの就職のファシリテーター養成研修を受講し、各団体で私たちのプログラムを取り入れて欲しいと思います。社会全体で、就職に苦しんでいる若者たちを支援していければと思います」(ホンキの就職・守冨氏)