2010年のクリスマス。群馬県の児童相談所に漫画「タイガーマスク」の主人公である「伊達直人」を名乗る人物からランドセルが10個届いたことに端を発し、児童擁護施設に架空の人物を名乗って寄付をする行為が各地で起きました。いわゆる「タイガーマスク運動」です。その後、3週間経たないうちにこの運動は全国47の都道府県に広がり、社会現象となりました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「一過性の社会現象で終わらせるのではなく、この活動をずっと続けていきたい」。名作「タイガーマスク」を愛するたくさんの人の思いをのせて、返済不要の奨学金で、児童養護施設を退所し、自立への一歩を歩み出す子どもたちを支えるNPOを紹介します。
進学する子どもたちの、自立への一歩を支える
「NPO法人タイガーマスク基金」(東京)は、高校卒業後、児童養護施設や自立援助ホームなどを退所し、四年制大学に進学する若者を対象に、返済不要の支援金を給付しています。
「児童養護施設などを出た若者の自立への第一歩は、経済的な面からも決して楽ではない」と指摘するのは、タイガーマスク基金代表理事の安藤哲也(あんどう・てつや)さん(55)。
「児童養護施設などを出た子どもたちの多くが、進学しても親からの仕送りや学費の援助をあてにできない状況。児童福祉法で守られる子どもの年齢は18歳未満。原則として、18歳を超えると施設を出なければならない。その際、国から自立支援支度金(最大で27万円程度)が支給されるが、一人での生活を始めるために生活用品を買ったり、引っ越ししたりするとすぐになくなってしまう」
「一方で、奨学金はどうかというと、昨年ようやく国による「給付型奨学金」がスタートしたが、学費が高い日本では十分な額とはいえない。「貸与型奨学金」は保証人が必要なため、頼れる家族がいない施設出身の子どもが借りるのは難しい」
「民間でも、様々な団体や基金が奨学金を給付しているが、成績が優秀でなければならなかったり、用途が学業に限定されていたりと様々な条件があるものがほとんど」
「『優劣をつけずに、一人でも多くの学生に支援を届けたい』という思いから、タイガーマスク基金では、成績不問・返済不要、保証人も必要のない支援金を給付している」
支援金通じ、社会とつながり続けるきっかけを
「施設を出た子どもたちは、それまでの団体生活から、突然ひとりの生活を余儀なくされる。衣食住の全てを一人でまかないながら、大学にも通わなければならない。ただでさえ、親元を離れてのひとり暮らしは大変。ここに加えて、自分でアルバイトしてお金を稼いで家賃や生活費を払いながら、学校の授業に出る。相当なセルフマネジメントが必要」と、施設を退所して進学した若者たちの現状を語る安藤さん。
タイガーマスク基金は1年ごとに支援金を給付しており、進級ごとの継続手続きは、支援を受ける若者と団体が直接やりとりするのではなく、あえて退所した児童養護施設を通じて行うかたちをとっているといいます。
「一旦子どもたちが施設を出てしてしまうと、関わり続けるということはそう容易ではない。手続きの中で、子どもの様子や生活を把握し、困っていることはないか、何か手伝えることはないか、相談事ができるようなきっかけを作り、子どもが大人たちとつながっているチャンネルを確保したいという意図がある」
「すべてではないが、児童養護施設を出た子どもたちは親をあてにできず、親戚とも縁がない子どもも多い。こういった子どもたちが施設を出た後もずっと社会とつながり続け、自立の一歩がスムーズにいくように、切れ目のないアフターケアが必要。支援金が、その一つのきっかけになれば」
支援通じて知る「人とのつながり」
「孤独に陥りがちな子どもたちが、『どこかで誰かが自分のことを気にかけてくれている、応援してくれている』ということを感じられる支援のあり方を作っていきたいと思った」という安藤さん。支援金を給付している学生へは、援助しているサポーター(支援者)からのハガキなど応援メッセージを届けているといいます・
「お金だけを渡せば良いのかというと、そうではない。お金は幸せの一つの手段ではあるけれど、お金があるからといって、幸せになれるわけではない。支援金の給付を通じて、人とのつながりや温かさ、生きていくことの喜びや『人生って楽しいんだよ』ということを、伝えていきたい」
「そして、自分は支援されるに値する、可能性をたくさん持っている人間なのだという誇りを持って、より豊かな人生を生きていってほしいと願っている。
親や学校の先生だけでなく、人生で大切なことを教えてくれる他者がいてくれる社会は、すばらしいと思う」
「誰かに支えられた実感」が、子どもの未来を変える
一方で、タイガーマスク基金の支援金を受けている学生は、年に2回、サポーターに近況報告を伝えることが義務づけられています。
「施設で暮らしていると、職員の他には、学校の先生ぐらいしか、他の大人と関わる機会ない。子どもたちには自分の気持ちを表現し相手に伝える方法を、ハガキを通じて学んで欲しいという思いもある」と安藤さん。
「『どういう風に書けばいいのかわからない』と戸惑いながら、文面からは、大学のことやサークルのこと、将来の夢、感謝の言葉…、彼らが一生懸命書いたのが伝わってくる。手紙を受け取ったサポーターさんたちは、子どもの近況や成長を感じることができるし、返信というかたちで、子どもたちに応援のメッセージを書いてくださる方もいる。会ったことはなくても、誰かに支えられていると感じられることが、きっとこの先社会に出た後も、本人の力になると信じている」
子どもたちに「もらってうれしい仕送り」を届けるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)はタイガーマスク基金と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×タイガーマスク基金」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円がタイガーマスク基金へとチャリティーされ、タイガーマスク基金の支援を受けている113名の学生たちに「もらってうれしい仕送り」を届けるために資金になります。
親元を離れて下宿した経験のある方であれば、野菜やお米、お菓子や食材…、親から届く仕送りがうれしかった記憶って、あるのではないでしょうか?
私も学生時代、そして社会人になってからも、親がよく仕送りを送ってくれました。振り返ってみると、箱を開ける楽しさもありつつ、「想ってくれているんだな」ということを無意識に感じる、心温まるものだったなということをつくづく感じます。
学生たちに届けるのは、高知にある「日高わのわ会」が製造しているトマトソースのセット。高知特産のシュガートマトを自然素材で丁寧に煮込んだソースは、「普段アルバイトや学業に忙しくてカップラーメンなどで食事を済ませている子どもたちに、ちょっとでも体にいいものを届けたいという親心と、パスタを茹でて絡めるだけ、パンにチーズなどを一緒にのせて焼くだけと作り方も簡単なので、きっと喜んでもらえると思う」と安藤さん。
ソースのセットは、送料も含めてひとつあたり1,000円ほど。今回のチャリティーで、113名の学生たちにこの仕送りを届けるための費用・113,000円を集めます。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、勇敢なトラの姿。団体名「タイガーマスク」にちなみ、力強く前進するトラを描き、ポジティブなメッセージを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、6月4日〜6月10日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページより購入できます。
JAMMINの特集ページでは、タイガーマスク基金の活動の始まりや、活動内容について、安藤さんのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせて、チェックしてみてくださいね!
・返済不要の支援金で、児童養護施設を出た子どもの自立の一歩を支える〜NPO法人タイガーマスク基金
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!