NPOの若手リーダーを育成しているカード会社がある。アメリカン・エキスプレスだ。ビジネスの業績に直結するわけではないが、2009年から、日本フィランソロピー協会と組み、2泊3日で全国からNPOの若手リーダーを集めた研修プログラム「アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー」を行ってきた。延べ参加者数は110人を超える。なぜ、NPOを支援するのか、プログラムの立ち上げからかかわる同社のエディ操 広報担当副社長に話を聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

NPOを支援する意図を話すエディ操広報担当副社長

――NPO若手リーダーを育成することになった背景を教えてください。

エディ:NPOの若手リーダー育成は、2009年から開始しました。もともとはアメリカの本社で始まった活動です。ベビーブーマー世代が今後数年で定年退職し、組織が入れ替わる時のために、NPO界の次世代のリーダーの育成が急務であると考えました。

そこで、リーダーシップ育成講座を始めました。アメリカのNPOの活動は、企業や行政、学会などと組んで、社会に大きなムーブメントを起こしていました。弊社も、NGOと組んでコーズマーケティングをしたこともあります。

日本ではNPO法ができてちょうど10年が経ち、彼らの活動にも勢いが出てきていました。そこで、日本フィランソロピー協会の高橋陽子理事長に話しを持ちかけたところ、賛同していただき、二人で一橋大学でイノベーション研究を行う米倉誠一郎教授に相談しに行きました。

米倉教授からも、「それは面白い!」と言っていただきました。こうして、プロジェクトはスタートしました。

――カード会社でありますが、NPOの若手リーダーを育成することで、メリットはありますか。

エディ:ビジネス上のメリットを求めているわけではありません。NPOリーダーに弊社のクレジットカードを持ってほしいから行っているわけでもありません。社会の課題解決に取り組むNPOの方々に、よりインパクトのある活動をしていただきたいという想いで行っています。

東日本大震災でNPOの存在感は強まったとは言われていますが、まだ社会的信用が得られていない点が多々あると聞いています。この状況を改善するお手伝いをしたいと思っていました。

――世界中のイノベーション研究をする米倉教授がプログラムの監修をしました。

エディ:大変刺激を与えてくれましたね。NPOはまだまだ規模も小さく、毎日、目前の仕事をこなしている団体が多いと伺っていましたので、この3日間だけは日常からの連鎖を解き放ってほしいと依頼しました。

弊社では、リーダーシップはスキルであると考えています。ワードタイプやエクセルと同じものです。素質ではなく、誰でも磨けて、上達できるものです。

米倉先生に、「リーダーシップを教えたい」と言うと、「イノベーションには、リーダーシップが必要だ」と返してくれました。

――参加したNPO同士のネットワークも築いております。

エディ:2泊3日の短い間ですが、横のつながりをつくり、個々の力を増幅させてほしかったのです。参加者同士が仲良くなれるように、宿泊研修の最初の段階で、一人ずつみんなの前で、自身が取り組んでいる活動の原点を話します。

分野は違えど、社会課題の解決に動いている者同士、すぐに共感し合います。人となりも見えて、まるで、数年来付き合っている仲間のようにお互いを感じるようになるのです。

――研修期間では、座学と実践を繰り返すそうですね。

エディ:例えば、実際に『ビッグイシュー』を街中に立って販売することを体験します。どうやったら、歩く人に興味を持ってもらえるのか、そこを座学で鍛えます。講師は、弊社のカリスマセールス副社長(現シニアアドバイザー)である山中秀樹です。

2泊3日をかけて、セールス、ロジカルシンキング、リーダーシップなど、それぞれの分野のスペシャリストから学びます。

――NPOに必要なリーダーシップの条件は何があるでしょうか。

エディ:NPOに限りませんが、3つの要素があると思います。「コミュニケーション力」「ダイバーシティ&インクルージョン」「目標達成に何が必要なのか理解していること」です。

まず、コミュニケーション力ですが、団体の意義に賛同するボランティア集めや企業への売り込み、行政へのアピールに必要です。そして、ダイバーシティ&インクルージョンも欠けてはいけません。

似たような活動をするNPOは、多くありますが、なかなか協働することが難しいようです。ダイバーシティ&インクルージョンの精神で、活動に色々な人を巻き込むことは重要です。

最後は、目標達成に何が必要なのか理解していることです。リーダーシップは複合能力です。なので、目標を達成するために、今何が足りていないのか常に理解していないといけません。

――リーダーシップの育成には、「エシカル」はキーになりますか。

エディ:リーダーに倫理観は大切です。日本は国民性もあり、エシカルが強いです。しかし、そのことで首を絞めている気がします。「清く、正しく、貧しく」という印象を受けます。

エシカルな活動は、儲けてはいけない雰囲気がありますが、それは違います。課題を解決するためには、サステナブルでなくてはいけません。戦略的思考を持ち、自立していくことが求めれます。

今の社会にNPOはなくてはならない存在です。そして、もっとインパクトを強くしていけるポテンシャルを秘めています。そのためには、人を育てることが必要です。そこに弊社が少しでもお役に立てればと考えています。

――NPOに憧れる若者も増えています。

エディ:私の若い頃と比べて、社会に貢献したい意識がすごく高いと感じます。日本の社会が以前より成熟したからだと思いますね。
このままの倫理観で、リーダーシップを身に着けて、グローバルの舞台で活躍してほしいです。日本人の若者の価値観は世界に誇れるものです。