ウェブシステム開発を手がける奥進システム(大阪市・中央区)は2012年7月、離職率が高いとされる精神障がい者の雇用問題の解決を目指し、就労定着支援システム「SPIS(エスピス)」を開発した。日報に表れるデータをもとに管理者が就労者の体調を把握し、コミュニケーションを通じて仕事の質や量を調整できる。実際に精神障がい者を社員として受け入れたことが開発のきっかけになったといい、奥脇学代表(45)は「SPISを広めて雇用状況を改善していきたい」と話している。(オルタナS関西支局特派員=中村隆太)

奥脇学社長(左)と広報担当の今岡由美子さん(右)=大阪市中央区

奥進システムは2000年に設立され、福祉に関わるシステムなどを手がけてきた。精神障がい者を2010年に1人、2012年に1人実習社員として受け入れたことで雇用問題の実態を感じ、その打開につながればと開発した日報システムがエスピスだ。

大阪保健医療大学保健医療学部が発表した「大阪府における精神障がい者の離職に関する研究」によると、2009年の精神障がい者の離職率は86%だった。これは、同年の身体障がい者の16%、知的障がい者の12%と比べても、極めて高い数値だ。

奥脇社長は「精神障がい者は症状の表れ方やタイミングに個人差があり、前兆があるのに突然発症したと受け取られやすい。これが雇用のハードルを上げている。その人に合った配慮が必要だ」と指摘する。

エスピスは精神障がい者の評価項目を、生活面、社会面、仕事面の3つのカテゴリに分けている。それぞれ4段階で良い、悪いの評価を就労者が日報として選択し、管理者とともに体調を管理するシステムだ。

データは指定した期間ごとにグラフ化し、体調を視覚的に把握できる。体調変化に応じた配慮すべきポイントが明確になり、表れ方が異なる症状にも容易に対応できるという。広報担当の今岡由美子さん(43)は「自分で日報をつけることで体調の変化を自覚できるようになり、自己管理能力も育つ」と話す。

エスピスには現在「当事者の変化に気づきやすい」「シンプルで分かりやすい」といった反響が寄せられている。企業でも1社が導入し、独立行政法人の試みにより10箇所で運用されるなど普及しつつある。奥脇代表は「精神障がい者が普通に働いている国はほとんどない。エスピスを広め、雇い方を確立できれば、日本はより自由に働ける国になる」と話している。