一人の一般人女性が16日、猪瀬直樹東京都知事宛てに2020年東京五輪で葛西臨海公園をカヌーの競技場予定地と決めていることに対する反対署名を提出した。署名はわずか2週間で、15772人分が集まった。同日都庁では記者会見が行われ、葛西臨海公園が競技場と決まったこと、さらには五輪閉幕後の利用計画についてまで、近隣住民への周知や調査は一切行われていないことが明らかになった。(オルタナS副編集長=池田真隆)

署名運動発起人の綿引静香さん(中央)、動物ジャーナリストの佐藤栄記さん(左から2番目)、チェンジドットオーグ代表のハリス鈴木絵美さん(右から2番目)=16日、東京都庁前で


署名運動の発起人は、綿引静香さんという一般人女性だ。9月12日からネット上で署名を集めるサイト「Change.org(チェンジドットオーグ)」を使い、15000人分の署名を集めた。記者会見の前には、スポーツ振興局オリンピック・パラリンピック大会準備部施設輸送計画課長(競技担当課長兼務)の澤崎道男さんへ署名を提出した。

提出した際に、澤崎さんと綿引さんら数人が、葛西臨海公園が競技会場と決定したプロセスや今後の利用計画などについて30分ほど話し合われた。

■「代替地は考えていない」

澤崎さんが回答した要点は次の3点だ。「代替地の候補は検討していない」「五輪閉幕後には、建設したスラロームを一般市民が利用できる施設とするが想定利用者数は調査していない」「建設計画について公園利用者に周知する予定はない」。

代替地の候補を検討していない理由として、「使える場所が都内にない。野鳥の会が挙げている代替地は他の計画がある」とした。今後の建設計画としては、2014年度中に環境影響評価を行い、2017年12月から着工し、2019年5月の完成を目指す。

もし環境影響評価でNGの判定が出たとしても、「まだ時間があるので、他の場所を探せば間に合う」と返した。環境影響評価の結果はウェブサイトに公表し、市民からの意見も集める方針だ。

■五輪閉幕後の利用計画は

都は、競技期間が終われば、一般市民がスラロームやラフティング(いかだくだり)で遊べる施設にしていくことを計画している。想定利用者数などの調査は行っておらず、施設を作ることで需要を喚起したいとのことだ。

「建設する競技場は、公園全体の3分の1ほどを使う。ビオトープエリア全体が使えなくなるわけではない」(澤崎さん)

■公園利用者に周知する予定はなし

「公園周辺には競技場となることを案内する看板一つなく、この計画を知らない利用者が多くいた」――10月中旬に葛西臨海公園を訪れた綿引さんはそう話した。告知しない都の考えは、「建設計画の材料が決まっていないと案内しても無責任となる」からだ。

この意見に対して綿引さんは、「多くのことが決まってから告知したのでは、遅いのではないか。今の段階で利用者と対話の場を開くべきでは」と答えたが、「ご意見として伺う」とし、今後の対応予定は不明なままだ。

■COP10の開催国として、できることは

記者会見の場で綿引さんは、「葛西臨海公園には、ギンヤンマやイナゴなど多くの昆虫が生息し、25年かけて育まれてきたビオトープがある。5日間の競技期間のために壊すことはもったいない。五輪に反対していないし、カヌー競技をやめてほしいわけでもない。競技場の決め方に疑問があるだけ」と主張した。

綿引さんが運動をはじめたきっかけはフェイスブックで周ってきたブログだ。そのブログは、春夏秋冬同公園に通い、動物観察を行う動物ジャーナリストの佐藤栄記さんが執筆したものであった。

同ブログ記事を初めて掲載したのは今年3月。このときには、数百件程度のアクセス数だったが、東京五輪が決まった9月8日に再度掲載したところ、大反響となり、10日間で130万件のアクセス数に到達した。

記者会見の場にも同席した佐藤さんは、「スラロームを建設すると、200~250mの人口の川を2本作ることになる。豊かな緑のほとんどが切られるのではないかと危惧している」と心境を話した。

澤崎さんに、具体的に何本くらいの木を切るのか聞いてみたが、「具体的な回答はもらえなかった」という。「都としてはできるだけ自然を壊さないで作ると言っていたが、人口の川や1万人の観客席などを作れば、大部分の木は切られ、ここに住む動植物は行き場を失うのではないかと危惧している」。

さらに、都が条約として掲げている選手村から半径8キロ以内に会場を建設する点についても指摘した。「アーチェリーは埼玉県朝霞市で、サッカーの予選は札幌で行われる。例外はあるので、なぜこの件についてだけこだわるのか」(佐藤さん)

集めた署名の中には、コメントを寄せる人もおり、「日本はCOP10の開催国でもあり、生物多様性基本法で各自治体に地域の生物多様性を守ることを義務付けている。世界中から注目される五輪を機会に、建設計画を見直し、自然と共存できるモデルケースになりましょう」という願いも見られた。