クリエイター支援施設「クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック扇町」(大阪市北区、以下メビック扇町)で、毎週開催されている「クリエイティブサロン」が、11月12日に30回目を迎えた。ゲストスピーカーは、大阪に事務所を構えるクリエイティブディレクターの冨田忠次氏。食品メーカーやデザイン会社などに勤めた経験をもとに、その集大成として設立した現在の会社では積極的に新たな市場を開拓し、今ではCI、VI、PIを中心に中国での売上が全体の約8割を占める。今と昔のクリエイターの仕事の進め方の違い、これからの時代に求められる、仕事を創造するという生き方について語った。(オルタナS関西支局長=神崎英徳)

「クリエイティブサロン」では、関西を中心に活躍するクリエイターがゲストスピーカーとなり、定員15人という気軽な雰囲気の中で話をすることで、他では聞けない本音が飛び出す。冨田忠次氏は商品開発から販売促進まで一貫したデザインを展開する「ティ・アンド・エヌ」の共同代表に2013年9月に就任したばかり。時代の変化を感じ取るため、クリエイターとの本音の交流を求めて、サロンのスピーカーを引き受けた。

気軽な雰囲気の中で行われる「クリエイティブサロン」

■クリエイターとしての遍歴

年少期の同氏はルアーフィッシングに熱中し、どのような色、どのような動きをつければ魚が釣れるのかと試行錯誤することに楽しみを覚えたという。そんな創造性のある仕事を探して、デザインの世界に入った。遊具の企画、デザイン、施工を行う最初の会社では、遊園地の大型遊具そのものから案内表示、ロゴなど幅広いデザインを担当した。

食品会社では自社のパッケージデザインを担当。メーカーだったので、まず数ヶ月かけて商品をつくり、「自分でデザインしたものは、自分で売る」と、地元のスーパーで売り場に立った。そこで商品を買う時に人が、どんなところを見て購入を決めるのかがわかり、購入現場をイメージしたデザインを心掛けるようになったという。

その後、本格化し始めたデザインのデジタル化の流れを知りたいと、デザイン室長として印刷会社に転職。2005年からは大手企業をメインクライアントに持つグラフィックデザイン会社に移り、その会社とプロダクトデザインの会社の共同出資で、今の会社「ティ・アンド・エヌ」を設立。これまでの経験をもとに、ものづくりから販売まで一貫したデザインを行っている。

冨田忠次氏

■匠からオペレーターに

サロンでは、昔と今のクリエイター事情が語られた。急激なデジタル化の流れを受けて、デザインの仕事を取り巻く環境は激変し、道具や工程だけでなく、デザイナーの意識も昔と今では大きく変わったという。

「昔のデザイナーは筆で線を引いたり、切り張りしたり、削ったりする仕事が多く、手に職があった。今は何でもパソコンでデザインするようになり、独自のタッチが失われ、匠ではなくオペレーターになってしまった」

またデザイナーの役割も大きく変化した。

「デジタル化が進む前は、写植やカメラマン、イラストレーターなどを手配し、全体の調整を行うプロデューサーとしての役割をデザイナーが担っていました。今はパソコンで何でもできるようになった分、コピーの作成や、デジカメ撮影、色調整など自分でやる仕事が増え、その分プロデュース力を養う経験の場が少なくなっています」

他の産業と同様、クリエイティブ産業も厳しい環境が続いているが、その逆風を乗り越えられるかどうかのカギを握っているのは、プロデュース力だと冨田氏は見ている。

■仕事を創造する生き方を

「デザインワーカーだと仕事は海外に流れ、価格もどんどん安くなります。単なる色や形ではなく、デザインの本質を掴み、その価値を提案することができる能力を持ったデザインプロデューサーでなければこれからは生き残れません」

冨田氏も、仕事が集まる場、中国に2007年から飛び込み、今では中国での売り上げが全体の約8割を占めるまでになった。中国には、各国のデザイナーが集まり、アメリカやドイツのデザイナーとの競争になる。絶えず売れることを求められ、支払いも厳しい。そんな厳しい環境だからこそ、プロデューサーとしての力が磨かれるのだという。

「デザインに限らず、単純なワーク作業の仕事はどんどん海外に移っています。日本はもともとアメリカのワークの部分を担っていたのですが、それが中国に移り、将来はタイやベトナムに移っていきます。でもそれらの国にはまだ仕事を創り出せるプロデューサーはあまりいません。これからの日本を支える若い人たちには、仕事をもらうことを待っているワーカーではなく、自分で仕事を創造するプロデューサーを目指してほしいと思います。サファリパークのライオンではなく、サバンナのライオンのように生きてほしいですね」

クリエイターの本音が聞けるクリエイティブサロンは、今後も週1回ペースで開催を予定している。参加無料。直近の予定は以下。詳しくはホームページまで。

●12/20(金)Vol.33 佐藤浩二氏
ロゴデザインの魅力に魅せられて
http://www.mebic.com/event/4358.html