立命館大学3年時に公認会計士の資格を取った上村祐介さん(24)は今年9月、会計検査院を辞めてITベンチャーに転職した。ネット上で資金を募るクラウドファンディングサイトを運営する。鹿児島生まれの若者は、安定した税金の監査よりも、個人や団体の夢を応援するサービスに魅力を感じた。(オルタナS副編集長=池田真隆)
上村さんが転職したのは、クラウドファンディング「ShootingStar(シューティングスター)」を運営するJGマーケティング(東京・千代田)。同社の佐藤大吾代表は、これまでに1200億円ほど集めている英国のクラウドファンディング「ジャスト・ギビング」を日本に導入した人物として知られる。
2010年3月に佐藤代表が日本に持ち込んだ「ジャスト・ギビング・ジャパン」は、寄付件数10万件、寄付総額10億円を突破し、現在日本最大規模となっている。
「ジャスト・ギビング・ジャパン」では、寄付を募れる団体はNPO法人格が必要という制約などがあり、誰もが利用できるわけではない。そのため、「誰もが自分のやりたいことを実現できる世の中」にするため、シューティングスターを今年6月に立ち上げた。
上村さんは1989年2月20日に鹿児島県日置市に生まれた。高校まで鹿児島で育ち、大学は関西の立命館大学経済学部に進んだ。関西を選んだのは、「関西弁が好きなことと、面白い人がたくさんいると思ったから」だ。
会計士の道を目指したきっかけは、警察官である父親の一言にある。大学に行く前に、「会計士になれば儲かるぞ」と、ふとしたときに聞かせられた。この言葉に触発されて、大学1年の冬から会計の勉強を学ぶため専門学校にも通い始める。
ゼミ、サークル、アルバイトはせずに毎日最低8時間は数字と向き合った。しかし、「まったく苦ではなかった。むしろ問題を解けていくのが楽しかった」と上村さんは話す。
猛勉強の結果、大学3年で目指していた公認会計士の試験に合格する。就職先として、監査法人を探していたが、ちょうど就職氷河期にあたってしまい志望していた企業には行く事ができなかった。
進路に悩んでいたとき、大学のキャリアセンターに相談し、会計検査院を紹介された。会計検査院とは、税金の使途を監査する機関だ。無事に面接をクリアして入社が決まった。
しかし、働いている中で、違和感を感じるようになる。「税金の使い道をチェックするだけなので、もっと良い使い方を思いつくことがあってもそれを提案することはできなかった」(上村さん)。
1300人の組織なので、個人としての意見は聞き入れてもらえず、年間スケジュールが決まっており、与えられた仕事をこなす毎日に刺激を感じなくなっていた。
2年5カ月働いた末、転職することを決意する。当初は、会計士の資格を生かせる職を探していたが、それよりも、「自分のアイデアが形になる場所」を優先した。
そこで、転職サイトで偶然見つけたのが、JGマーケティングだった。面接では、佐藤代表の「誰もがやりたいことを実現できる世の中」を目指している姿勢に共感し、働くことを決意する。
1000人を超える組織から、5人の職場に移った上村さんは、刺激的な毎日を過ごす。主な作業は、クラウドファンディングを利用したい人と相談し、プロジェクトをブラッシュアップすることだ。
働くやりがいは、自分のやりたいことが形になっていく瞬間にある。ただ、転職したことで自分の新たな一面にも気付かされている。
「ここでは仕事は与えられるのではなく、つくっていかないといけない。転職するまでは、自分で言うのは恥ずかしいけど、そこそこできる子だと思っていた。しかし、今は意外とできない子なんだと痛感している(笑)。」