腕や頬にピンクの三角形をペイントした写真がSNSで拡散されている。これは、性的マイノリティーであるLGBTの象徴を表すマークだ。狙いは、世界中で問題視されているロシアの反同性愛法に対する反対運動を加速することだ。(オルタナS副編集長=池田真隆)

キャンペーンの統括者であるタムジン・オモンドさん

この動きを起こしているのは、化粧品メーカーのラッシュジャパン。1月27日から2月14日までの期間で、店舗を展開する世界約50カ国で協力し、「WE BELIEVE IN LOVE~愛でつながろう~」という名称のキャンペーンを行っている。

LGBTのシンボルであるピンクトライアングルを腕や頬など身体のどこかにペイントし、写真を撮り、ハッシュタグ「#signoflove」を付けてSNSで拡散する。キャンペーン期間中に集まった写真は1冊のフォトブックにまとめられ、バレンタインデー当日である2月14日にロシア大使館に提出する予定だ。

ロシアの反同性愛法は、2013年6月に同国で成立した。未成年者への同性愛プロパガンダを禁止する法律である。法律成立以降、ロシア各地では外国人旅行者も含めLGBT当事者への暴行が横行している。

この法律への抗議の声は国際社会からも多く出ている。欧米首脳がソチ冬季五輪の出席を見送ったり、世界的アーティストや俳優なども異議を唱えている。

同キャンペーンの統括者で、自身もLGBTであるイギリス人のタムジン・オモンドさんは、「あなたは、あなたのままでいい」というメッセージを世界中から伝えて、ロシアで苦しむLGBTたちを勇気付けたいと意気込む。

ロシアでは、反同性愛法が成立して以来、LGBTの立場が危機にさらされている。タムジンさんは、「2013年に法律が成立してから、LGBTが参加するレインボーパレードへの参加者が激減した。以前は1万人ほどが集まったが、今では800人しか集まらなくなってしまった」と話す。

警察からLGBTへの暴行事件も増しているという。「オンラインで呼びかけたゲイの集会が、警察のおとり捜査だったこともある。国全体で、LGBT当事者への憎悪感を高めている気がする」とタムジンさんは伝える。

憎悪感が沸き起こる背景には、不況もあると分析する。「経済状況が悪く、国民のストレスのはけ口として、LGBT当事者が暴行されているのでは」(タムジンさん)。

同キャンペーンで集めた写真は、一冊のフォトブックにして、バレンタインデーの2月14日にロシア大使館に提出する。バレンタインデーに届ける理由は、「人を愛するということは、グローバルに共通する気持ち。その気持ちに、差別や偏見があってはいけない。好きな人を愛する権利を奪うことはあってはならない」とタムジンさん。

■沈黙の文化を破る突破口は

今では人前でLGBTだと公言できるようになった彼女も、カミングアウトする前は、自身の性に対して悩み苦しんでいた。小学生になってから毎日日記帳に「私はゲイじゃない」と書き綴り、自分は同性愛者ではない、と思い込もうとした。

周囲の友人に勇気を出してカミングアウトしたとき、想定していた反応とは違い、誰しもが受け入れてくれたという。その瞬間から、人間性を信じるようになった。

日本には、LGBT当事者は人口の割合にして約5%いるとされる。20人に1人の計算となるが、カミングアウトしていない人も多く、実際の数字は把握できていない。

法律では、同性婚は認められていないので、「シェアハウスをしている友人」と扱われ、遺産を相続する権利もない。一方、タムジンさんの母国イギリスでは同性婚が認められている。タムジンさんは、「日本には沈黙の文化がある。LGBTだと周りに知られたくないと思っている人が多いような気がする」と印象を話す。

日本とは対照的に堂々と公言できる雰囲気があるイギリスとは何が違うのだろうか。タムジンさんは、「社会は変えることができると信じているかどうかの違い」と見る。「イギリスでも、90年代は人権が今のように守られていなかった。しかし、社会を変えることはできると信じた人々が立ち上がり、声を上げ続けた。その結果、2000年代になって、人と違うことがカッコ良いと思われだし、状況が変わった」。