会社の規模や知名度だけでなく、「志」で働き先を決めた若者たちがいる。20年続く不況で、安定志向が高まる一方、ビジネスのモノサシも少しずつ変わりつつある。若者たちはどのようにして進路を選択したのか、真意に迫った。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂)

「就活」をキーワードに話は盛り上がった

――『グリーン天職バイブル』は、企業やNPOの経営者自身が執筆する新しい形の就職本です。通常は人事担当者が会社案内を書くのですが、経営者が執筆することで、より「志」に触れてもらえるのが特徴です。前回は2009年に発行し、4年ぶりとなります。この本では「会社選びのモノサシは若者たちが変える」を掲げています。これまでの採用活動は知名度や規模だけを売りにしていました。その結果、大学卒業後3年以内の離職率は31%にまで上りました(厚生労働省調べ、2010年3月新規大学卒業者を対象)。こうした就職のミスマッチが問題視されるなか、会社選びのモノサシを変えていくことが、私たちのミッションです。今回、話を伺う森山誉恵さんと上村祐介さん(24)は、志で働き方を選んだ20代の若者です。社労士で、日本ES開発協会の矢萩大輔会長とともに2人の話をお聞きします。まずは上村さん、自己紹介も含めて、現在の仕事と転職した経緯について教えてください。

■会計検査院からベンチャーへ

クラウドファンディングの世界へ飛び込んだ上村さん

上村:私は2011年3月、立命館大学経済学部を卒業し、新卒で会計検査院に就職しました。防衛省を担当し、公認会計士の知識を活かして原価計算が正しく行われているのか、検査していました。

会計検査院では2年5カ月間働き、2013年9月、オンラインで資金調達を行う「クラウドファンディング」を運営するJGマーケティング(東京・千代田)に転職しました。

前職を辞めた理由は、ここにいると「マズイ」と思ったからです。正しい表現かは分かりませんが、自分が無理に頑張らなくても回る組織でした。頑張っても、大幅に給与が上がったり、昇進したりするわけではなく、頑張りが自分自身に返ってこない制度だとも感じていました。

日々、ただ与えられた仕事をこなすだけで、やりがいを見出すことができずにいました。上司を見ても、数十年後こうなるのかと思うと不安になることもありました。

転職のときも、会計の知識を生かした職を探そうとしましたが、大きな組織で決まりきった会計作業をすることに魅力を感じなくなってしまっていたのです。

組織の規模が大きければ、自分の存在価値は小さくなってしまいます。自分の意見や考えたことを実現するのには、時間がかかります。ですから、あえて大きい組織に入ろうとは思いませんでした。

そんなとき、転職サイトで社員2人、設立まもないJGマーケティングに出合いました。ここなら、自分の思ったことが言えて、実現できると思いました。

■大学卒業後、NPOを設立

NPO法人3keysの森山代表

――森山さんは、大学卒業後、就職せずにNPOを立ち上げました。

森山:私は慶應義塾大学法学部を卒業後、児童養護施設の学習支援を行うNPO法人3keys(スリーキーズ)(東京・新宿)を立ち上げました。学生時代に設立した団体をNPO法人化したのです。そういえば、昔はキャビンアテンダントになりたいとも思っていましたね(笑)。

もともと、私は高校時代から社会学に興味を持っていました。なぜ社会学に興味を持っていたのかは、いろいろあるのですが、簡単に言うと一番面白そうだと思っていました。慶應義塾大学には社会学がなかったので、一番学習領域が近かった法学部政治学科を選びました。

大学1年生のとき、OVAL(オーバル)という日中韓の大学生がビジネスで共同関係をつくっていく学生団体に所属しました。オーバルでは、3カ国の学生でビジネスコンテストを開催しており、数多くのビジネスプランを勉強しました。

そのとき、私があったらいいなと思うものはすでに存在するか、お金にならないことばかりでした。それだけ日本の営利は豊かなんだなとも思いました。それに、コンテストには、本当に優秀な人が多く参加していました。特に中国の学生はTOEIC900点以上が当たり前で、倍率300倍のなかで勝ち上がってきた猛者たちです。こういう人たちがいる営利企業は、私がいなくてもどんどん発展していくイメージが持てました。

一方で、中高時代にできた友達のことを思い出していました。私は進学校に通っていたものの、少し荒れていた時期もあり、比較的多様な友達がいた気がします。そのかげか、色んなタイプの友人たちが回りにいたのですが、不安定な生活をおくる友人の多くは家庭環境が複雑なことも多くて、こうした問題は、果たして経済成長することで解決できるのだろうかと疑問に思い始めました。

それからもっとニーズがある分野はないかと思い、近所の児童養護施設でボランティアを始めました。最初に教えた子は、中学2年生でしたが、繰り上げ、繰り下げの掛け算から教えました。

養護施設の子どものなかには、学校にもちゃんと通わず、夜に施設を抜け出して夜遊びを繰り返す子もいます。その子たちを見たときに、何だか昔の自分を見ているような気分にもなりました。同時に、ビジネスコンテストで出会った優秀な若者たちと、ものすごいギャップを感じました。

この問題解決に本業で挑む企業は少なかったので、非営利でやっていきたいと思い、大学3年時に学生団体3keysを立ち上げました。
3keysは、民間の力でも子どもの社会保障や人権保障を守ることを目指しています。日本では保障関係は行政の独占状態で、その成熟スピードは激しい競争環境にある営利と比べて大きく劣っています。どこで、どんな環境で生まれても必ず必要なものは保障されるべきだろうと、ミッションを設定しました。

そのミッションの実現のために、学生であった自分でもその力を最大限に生かすことができる学習支援にまずは特化しました。学生たちにボランティア登録をしてもらって、家庭教師として研修して、養護施設に派遣します。今では60代まで幅広く活動していますが、やはり中心は若者にはなっています。

学生のときは、後輩に引継ぎ、起業しようとは考えていませんでした。IT企業で2年間インターンをしたり、就活も一応していました。でも、就職活動には身が入らなかったのです。志望動機を書こうとすると、この企業に行きたい理由が見つからず、手が止まっていました。
団体の活動には、何の迷いもなく打ち込むことができて、気が付けばどんどんはまっていきました。後輩に引き継げるレベルではないと感じ、卒業後も続けることを決めたのです。

この鼎談の続きは、「グリーン天職バイブル2014-2015」