BRICSの一員として注目が集まるインド。1991年の経済自由化以降、インド経済はIT等のサービス産業を牽引役として急速な成長を遂げ、近年は年率9%台の伸び率を示してきた。そうした中、技術革新が求められる製造業において十分な知識とスキルをもった人材の不足が顕著となっており、優秀な人材を訓練・育成する役割を担う理工学系高等教育機関を拡充する必要性が高まっている。
インド政府は更なる社会経済発展を目指し、理工学系の人材育成を強化・拡大するため、2007年に新設されたインド工科大学8校のうち1校の支援を日本へ要請した。日印が目指す高等教育機関のあり方とは。インド工科大学ハイデラバード校(以下、IIT-H)で客員助教授として勤務する、JICA専門家の片岡広太郎さんに話を聞いた。(聞き手・オルタナS特派員=清谷啓仁)
■最高峰、インド工科大学
インド工科大学は1950年に創設された国内最高峰の理工学系高等教育機関であり、数十倍に上る倍率を経て入学した学生が一流の教授陣の指導及び教育環境のもと学んでおり、これまでも国内人材の発掘・育成に貢献してきた。
2008年に設立されたIIT-Hでは、現在、仮キャンパスでの教育・研究活動が行われているが、インド政府は同校新キャンパスのためにハイデラバード郊外へ約2k㎡の用地を確保しており、将来的に約3万人のキャパシティを有する施設群のマスタープランを策定している。
本プロジェクトでは、①円借款による大学施設整備(東京大学によるデザイン支援)、②技術協力による日印産学ネットワークの構築、③自然災害の減災と復旧のための情報ネットワーク構築に関する研究プロジェクト(DISANET)、という3つのODA支援が行われている。
ハードとソフトの双方へのアプローチを通じて相乗効果を生み出しつつ、日印協力の象徴となる一流の教育研究機関の設立を目指す。具体的には、日本の産学関係者とIIT-Hによる共同研究の促進、研究者の交流、研修員の受入れやキャンパス施設の整備といった重層的な支援を通じ、IIT-Hの能力向上と環境整備を行い、ひいては日本の大学・産業界とIIT-Hとの間で産学の研究ネットワークを形成し、将来にわたる日印連携体制を構築していく。
■産学間で足並みを揃える
日印交流が目指すものは何だろうか。本プロジェクトでは、日本の大学(修士・博士課程)への留学受け入れ、日印大学間での共同セミナーや研究促進、産学間でのインターンシップや就職先の紹介等を通じて双方の交流活性化を図っている。
インドという大きなマーケットにおいて、日本の研究手法やマインドを持ったインド人研究者が増えること、さらにはその成果物としてのビジネスが起こっていくことは、インドだけでなく将来的な日本の国益にも繋がる。
「インドにないものを日本はたくさん持っている。もちろん、その逆も然りです。現役世代の大学教員や次世代の研究を担う学生たちの産学間での交流を深めることで、インドの人たちに日本のことをもっと知ってもらいたい。つまりは、日本のファンになってほしいんです。日本の大学研究では技術そのものだけではなく、それらを社会でどのように活用するかいうことを根底に考えています。日本の技術や製品が世界の中で高いプレゼンスを保持できるのは、使う側のことを考えるきめ細かさにあるのではないでしょうか。いまのインドはそこが抜けてしまっている状態なので、交流を通じて『日本流』を自国に持ち帰ってほしい。将来的には、IIT-Hをはじめとしたインドの各大学と日本の大学間での協力・競争をしながら、より価値のある技術やビジネスを生み出せる基板にしていきたい」(片岡さん)
どんなに優れた研究や技術も、実社会で活用されなければ価値を生まない。日本の研究手法を伝えるだけではなく、研究の段階から大学と企業とが連携していく試みも開始されている。産学間が足並みを揃えることで、国の発展速度は飛躍的に高まることだろう。
■日本の大学のプレゼンス
インド工科大学は世界でのプレゼンスを年々高めており、国内屈指の優秀な学生たちが集まってきている。日印産学交流を考える上では、いかにそうした学生に日本を選んでもらうかということが鍵となってくる。
「インドの学生たちの一般的なマインドは欧米志向。特に留学先として選択されるのは、ハーバードやスタンフォードなどの名門大学。日本の大学は欧米に比べると過小評価されていますし、そもそもインド人の学生にとっては情報が圧倒的に不足している。良し悪しを判断するだけの情報がないこと、そしてたとえ日本へ留学したとしてもその後のキャリアをどのように描いていくのかロールモデルになるような人もいないことが、彼らに二の足を踏ませています。わざわざリスクを犯そうとする学生は少ないですから。グローバル時代に突入し、日本の大学も海外の大学と否応なしに勝負していかなければなりません。これからは、『なぜ日本の大学なのか』という理由付けが彼らにとってより明確になるよう、大学としての色を打ち出していかなければならないでしょう。日印産学交流がその一つのきっかけになれるよう、ハイデラバードでの役目を果たしていきたい」と片岡さんは意気込む。
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