日本でも広く知られ、教科書への記載もされたほど有名な、世界的ベストセラー『アンネの日記』。このほど、東京都内や横浜の図書館の『アンネの日記』や関連書籍、ホロコースト関連書籍が次々と破られた状態で発見され、波紋が広がっている。一部は昨年2月の時点で破損が確認されていたものもあるという。(オルタナS編集部員=伊藤由姫)

そもそも『アンネの日記』とはどのようなものなのか。第二次世界大戦中のオランダ・アムステルダムが舞台となる。当時オランダは、ナチス・ドイツの占領下にあり、ナチスによるユダヤ人狩りが行われていた。

その時、隠れ家に2年間潜んでいた8人の生活をユダヤ系ドイツ人の少女アンネ・フランクが日記として記したものだ。1944年8月4日、アンネたちは、ナチス期の秘密国家警察であるゲシュタポに隠れ家を発見され、アンネは姉のマルゴット・フランクとともにベルゲン・ベルゼン強制収容所へ移送された。

アンネは、そこでの不衛生な環境や待遇によってチフスを患い15歳という短い生涯を閉じた。ゲシュタポに荒らされた隠れ家であったが、アンネの日記は奇跡的に残されており、戦後、唯一生き残ったアンネの父であるオットー・ハインリヒ・フランクによって出版された。

アンネの戦争と差別のない世界になって欲しいという思いをのせたこの日記は、60以上の言語に翻訳され、2500万部を超える大ベストセラーとなっており、全世界で人類が戦争や人種差別、ホロコーストなどについて考えるきっかけとなっている。

そんな『アンネの日記』であるが、今回発見された書籍は全て、一部のページを引きちぎるような形で破損されている。特定の書籍を広範囲で破損していることから、単なる愉快犯ではなく、レイシズムなどの思想的・政治的背景が動機ではないかとみている。

この事件は、国内のみならず海外メディアも広く報じている。オランダ・アムステルダムの博物館である「アンネ・フランクの家」は、「ショックを受けている。詳細な事実を知りたい」とコメントし、アメリカのユダヤ人権団体である「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は緊急の声明を発表し、「ホロコーストで殺された150万人のユダヤ人を侮辱している」と強く非難した。

菅官房長官は21日の記者会見で、「我が国として受け入れられるものではない」と強い不快感を示しており、警視庁も器物破損事件としては異例の捜査本部を設置し、本格的な捜査に乗り出した。また、この被害を受け、東京のイスラエル大使館と日本ユダヤ教団は、被害に遭った図書館全てへ『アンネの日記』を寄贈すると決定した。