熊本市は6月4日、世界では1000番目、アジアでは初となるフェアトレード・シティの認定を受けた。フェアトレード・シティの認定を受けるために様々な施策を講じた立役者は、市民団体フェアトレード推進委員会の代表であり、自らもフェアトレードショップを経営する明石祥子さんだ。オルタナSでは6月28日にインタビューを行い、フェアトレード・シティ認定までの経緯や推進に当たって苦労したこと、今後の方向性などについてお聞きした。(聞き手:オルタナS 加藤千博)
――フェアトレード・シティを目指したきっかけは何ですか?
1993年頃から私の姉がフェアトレードに関連する環境のお店を開設しました。当時はまだ、フェアトレードという言葉もあまり聞かれなかった時代です。その後、私がそのお店を引き継いだのですが、2001年にピープル・ツリーの代表サフィア・ミニーさんに熊本に来てもらって、講演会を行いました。その講演会の中でフェアトレード・シティを紹介いただいたのがきっかけです。当時、フェアトレード・シティはイギリスで生まれたばかりで、世界にはまだ数十しかなく、日本でもこれをやってみたいと思いました。その後、2003年に私が熊本市の環境プロジェクトチームに推薦されて、何か考えてと言われて、フェアトレード・シティを目指すという企画書を作ったのです。その時、アジア初になることを強調しました。フェアトレード・シティを知ったのが10年前、具体的な動きを始めたのが8年前ということになります。
――フェアトレードの認知度を高めるためにどのような活動をされたのですか?
2003年からフェアトレードに関するイベントをしょっちゅうやるようになりました。記録に残っているものだけでこれまでに450回になります。すべてが記録に残っていないのでもっと回数は多くなると思います。とにかく認知を高めるためにフェアトレードを知ってもらうという活動を中心に行いました。2005年には再び、サフィア・ミニーさんを熊本にお呼びしてイベントを開催しました。有料のイベントにも関わらず結構、人が集まったのです。そこで関心が高まっているという手ごたえを感じました。しかし、まだフェアトレードという言葉が浸透していない時代。8年間、活動を続けてきましたが、こんなに広がるとは思いませんでした。
――市民運動として活動を盛り上げるためにどのような工夫をしましたか?
全国のフェアトレードショップの店主や大学の先生、学生などと国内でフェアトレード・シティを誕生させるためにいろいろ話し合いは行っていたのですが、なかなか進みませんでした。まずは熊本が立ち上がって前例を作ろうと、2009年に推進委員会を発足。とにかく多くの人に発起人になってもらおうと、若い人を中心に声を掛けていきました。最初、目標を100人にして、1ヶ月間で200人に声を掛けたのです。そうしたら、ほとんどの人が手を挙げてくれて、推進委員会はなんと200人の規模になってしまいました。人数が多すぎると怒られたこともありましたが、私は人数が多ければ多いほどフェアトレードのうねりも大きくなるものと確信していました。発起人は高校生からショップの店主、大学の教授まで様々な人たちになってもらいました。
――認定に当たって一番大変だったことは何ですか?
市議会の対応です。フェアトレード・シティになるには、地元議会がフェアトレードを支持する決議を行わなければなりません。各会派の議員さんを回ることから始めました。フェアトレードの認知度は低く、言葉の意味から説明しなければなりませんでした。何しろ国内で前例のないものですから、フェアトレード・シティをなぜ目指す必要があるのか説明するのも大変です。議会の理解を得るための後押しとして推進委員会の発起人を360人まで伸ばして、1万人の署名も集めました。多くの熊本市民がフェアトレード・シティを目指していることを知っている状態に持っていきました。そして、2010年12月の定例議会で「フェアトレードの理念の周知を求める」決議が全員一致で可決されたのです。これによって、フェアトレード・シティの認定に向けて一段と弾みがつきました。
――人口1万人に1店舗フェアトレードショップがあるという要件のハードルは高くなかったですか?
推進委員会のボランティアメンバーが1店舗ずつお願いして回りました。コーヒーショップなどは理解を示してはくれても、しっかりしたご主人ほど古い付き合いを大切にされるので、新しい取引を受け入れてもらえないことが多くありました。怒られたりしたこともしょっちゅうです。粘り強く交渉を重ねた結果、これも何とかクリアしました。2種類のフェアトレード産品を扱うことが要件なので、例えば喫茶店の場合、コーヒーだけだと0.5点になります。コーヒーと紅茶を扱ってもらえたら、1点になります。その合計が80.5ポイントになり、熊本市はクリアしました。
――明石さん自身もフェアトレードショップを経営させているのですね
はい、「らぶらんどエンジェル」というフェアトレードショップを熊本市内に開設しています。また、フェアトレード産品を扱ったカフェを国際交流会館の中で開設しており、ここはフェアトレード・シティ推進委員会に所属する学生や留学生が中心になって、お店の運営を行っています。若い人が自ら経験し、実践する場となっています。毎年卒業などで入れ替わっていく学生さんの指導もしながら、5年間継続しています。フェアトレードを考える上で働くという体験をするということが大変重要だと思っています。
――日本の他の都市でも動きがあるようですね
昨日まで札幌で開かれていたフェアトレードフェスタ2011に参加するために北海道にいました。現在、札幌市と名古屋市では実行委員会が立ち上がって活動をしています。東京の国分寺市でも動きがあります。一つ前例が出来れば、他の都市も取り組みやすくなるのではないかと思います。
――世界で1000番目、アジアでは第1号となりましたが、今後は何を目指していきますか?
フェアトレードを市民活動として分かりやすく展開をしていきたいと思います。まちの人たちが応援するプロジェクトになり、みんなで考えていけるようにしたいです。そして、世界に目を向け、大きな視野を持って、活動をしたいと思います。いま、バングラデシュと連携を模索しています。連携して、お互いビジネスになる関係も創っていきたいです。また、企業や大学との連携を図っていきます。大手企業もフェアトレード・シティの動きに注目してくれています。大手流通会社が熊本市まで視察にきたこともありますし、コンビニ業界でも独自の動きがあるようです。地元企業ではフェアトレード産品を店頭に置いてくれたり、ノベルティとして採用してくれたりするケースも出てきました。フェアトレード・シティとして市民・企業・行政がどのように連携していくか、まだスタート地点に立ったばかりです。