就活における自殺やうつ、若手社員の「新型うつ」問題、大学生や若者に身近な心の病気が日々のニュースの中でも話題になるようになりました。2013年9月10日の「NHK解説アーカイブ」によると、「就職失敗」が原因・動機となっているとした20代の自殺者数は平成19年の60人と比べて、平成24年には2.5倍の150人に増加しています。若年性のうつ問題に取り組むNPO法人Light Ring(ライトリング)の石井綾華代表に「20代の心の向き合い方」について話を聞きました。(聞き手・Wandererリーダー 庄司 智昭)

若年性のうつ問題に取り組む石井代表

若年性のうつ問題に取り組む石井代表

――NPO法人Light Ringとはどのような活動をされているのですか。

石井:増え続けている20代のうつ問題を解決するために、悩む人を支える力である「ソーシャルサポート力」を高めることを目的に活動していて、特にスキルアップとコミュニティの2軸を使って、20代の自殺問題を20代が自ら解決していこうとしています。

――「ソーシャルサポート」というのは周りの人達が支えていくというイメージですか。

石井:そうですね。医師とか専門家ではなくて、日常生活で会える友人や家族などが支える力のことを指しています。

――スキルアップとコミュニティは、具体的にどのような活動をされているのですか。

石井:メインの事業が「ソーシャルサポート力養成講座」と「Light Ring Time」の2つがありまして、前者がスキルアップになります。身近な人を支えることは意外ときついことだったりするので(友達・恋人が夜中に電話をしてきたり、お金を貸してなどの厳しい要求を突きつけられることがある)、そこに対してどう対応したらいいのかというスキルを学んでもらいます。それを受けた後に、「Light Ring Time」というコミュニティの中で、実生活の中でどういう状況なのかをシェアしてもらうことで、燃えつきを防いでいます。

――HPを見ていて、「聴くトモ」という事業も印象的だなと思いました。

石井:友達としてスキルを学んで実生活で生かしてシェアするのがメインの事業なのですが、これを上手く出来た人がこれからの支え手を応援していくという仕組みです。誰でも相談できるシステムで、現在は15名くらい、社会人と学生の方々が「聴くトモ」として、毎週水曜日に原宿で行っています。

――ありがとうございます。では、次にこのNPO法人を立ち上げようときっかけを教えてください。

石井:私自身が心の不調を抱えていたときに、病院が出来ることには限界があるということに気が付いたんです。薬を処方して病気を治すことは出来るけど、その人がイキイキと主体的に過ごすための支援は病院で出来ない。

本来、人が求めるのは健康だけじゃなくてその先にある人生の幸せとか充足感だと思うんですね。そのためには私は心の不調から寛解する過程で身近な人の声が薬以上に役に立った主観があります。そのため、身近な力である「ソーシャルサポート力」を、一人でも多くの人が「うつ」にならないように未然に悪化を防げるサポート体制を新しくつくりたいと思ったのがきっかけです。

ソーシャルサポート力養成講座の様子

ソーシャルサポート力養成講座の様子

――これまでの苦労や大変だったこと、また逆に嬉しかったことは何ですか。

石井:例えば、今は無いのですが、私たちは「ソーシャルベンチャー」を目指しているNPOでもあり、期日にシビアだったり、確かな成果物が求められたりなど、ハードに働くことが多くて、仲間がこころの不調をきたしてしまったことがありました。

うつ病を防ぐために始めた団体なのに、自分がその人に心の不調を生み出すほど無理をさせてしまったんです。申し訳ないという罪悪感でいっぱいになりました。また、会社の中で生産性を上げようと考えたら、人を機能としてみてしまう瞬間が生まれ、実際にうつという症状になる人が自然と生まれやすい事実を、肌感覚で理解し恐れを感じました。社会でうつ病が起こりうる容易さを実感した機会になりました。

逆に嬉しかったことは、大学2年生の時に一人で始めたのですが、解決方法が分からないなかで、ブログで「うつ病を防ぐことに興味がある人集まれ」と呼びかけたときに、4人くらいの人が集まってくれて活動が始まったことです。同じ問題に興味を持っている人が他にも居ると思えたことは、すごく勇気になりましたし、嬉しかったです。

――これからのLight Ringの展望を教えてください。

石井:今、心の病は、治療は出来るのですが、予防は出来ません。予防出来ないという理由の1つに、その方法がないというのが挙げられます。その予防を仕事に出来るNPO法人にしていきたいと思っています。医療に携わる方々とともに、病気があっても無くても誰しもが生きやすい社会をつくるために「病気にならない仕組み」を整えていきたいです。

身近な人が悩む人を支えるコミュニケーションがうつにならない仕組みとなり社会保障のセーフティネットとして機能していくようになるのだと思っています。そういった支援を収益化に繋げていくことを目指しています。

――それまでの達成段階としては、今はどれくらいまできていますか。

石井:10%くらいですかね(笑)。目指すところまでは全然届いていなくて、もし駄目でも次世代の人に繋いでいって、達成できればいいなあと思っています。そう簡単に達成出来るわけではないけれど、それが理想であるという確信と、応援してくれる医師の方とかもいらっしゃるので、もっと多くの20代の仲間が20代の心の病予防コミュニティに参加したくなる土壌をつくり、コミットしてくれる人と役割を分担して、事業を産業にしていけたらと思います。

■20代の心の向き合い方

――それでは、次に若者と心の問題について聞かせてください。最近、メディアなどを通して就職活動で自殺をしたり、うつ病になってしまったりするという話をよく聞きますが、この状況に対して石井さんはどう思っていますか。

石井:就活の場面で若者がそういう状況に陥ってしまうのは結構必然的なことだと思っています。なぜかというと、今の世代は「ゆとり」と言われると思うんですけど、日本の教育はより「調和」を大事にする文化が教育を通じてつくられてきました。成果を出すことよりも、他の人と上手く生活していくか、充足した人生を歩むための経験を積むことが求められていた時代だったんですね。

しかし、就活の時期に初めて、社会から大事にすべきだと言われてきたことが、急に変わってしまいます。「調和」よりも相手を蹴落とす競争心を求めるという全く違う文化の中で生きなければいけない。すごく大きな葛藤が、一人ひとりの若者に背負わされます。

柔軟性の高い人は適応できるけど、そんなに高くない人は順応できず耐えきれなくて自分が壊れてしまったり、落ち込むことはあるんじゃないかなと思います。それは、その人がそのシステムに合わなかっただけのことなので、耐えきれない自分自身を責める必要は全くありません。

――私自身も実際に就職活動をしてみて、新卒採用という道も通るのも大事なんですけど、失敗したときや行き詰ったときの選択肢を知っておくことも大事だなと思いました。

石井:すごく大事だと思います。実のところ就活中の若者は「支援の対象」に位置づけられることもあるんですね。助けられていい存在なんです。自分だけでなくて、もっと色々な場所に頼っていい期間です。なので、選択肢を知ってみることも大事で、それを使ってみる勇気もちょっと大事かなと思います。

――ほかにも大学生が気を付けたほうが良いことや、周りの人たちはどのようにサポートすればいいのでしょうか。

石井:就活で長年働けるような安心できる会社を選んでいる人って意外と多いのかなと思います。就活というよりは「就社」というイメージ。ただ、もっと心を楽にして生き生きと過ごせるようになるためには自分がどういう人間になりたいのかという軸をハッキリさせることがヒントになると思います。

そうすると意外と悩みって軽くなるんですよね。大企業に入るとかじゃなくて、自分の大切な考え方の優先順位=価値観がハッキリしていれば、その価値観を満たすためにどの会社を選べばいいのかが明確になるので、少しだけ就活で悩まないためのコツになるのかなと思います。

あとそれだけじゃなくて、それを友達と一緒に話し合うことも大切かなと。話し合いの中で、どういう自分になりたいのかを突き詰めるだけでなく、「こんなことが難しかった」とか「これが出来なかった」とかお互いに苦しさを吐き出すことが大事かなと思います。

――石井さんの今までの活動を通してそのような傾向を感じることはありましたか。

石井:ちょっとずつ増えてきてはいますね。悩み相談もあれば、卒論でうつ病のことについて取り上げたい方の問い合わせも増えていて、その人の卒論の相談にのりながら、実はその人の悩み相談になっているようなことが結構あります(笑)。そういうケースが増えた気がします。

――心の問題でいうと、若手社員の「新型うつ」という言葉が流行した時期もありました。インターネット上の声を見ると「個人の甘えだ」という声も聞こえてきます。そういう声を見ると、本当に悩んでいる人たちが声を上げづらくなると思うし、一方で新しく出てきた言葉を使って楽をしようという人もいるのではないかと思います。そういう難しさをとても感じていて、それを石井さんはどう認識していますか。

石井:新型うつっていうのは、医師が定義したものではなくて、メディアが創り出した言葉なんですね。だから、その症状をどう扱うかは今は明確に決まっていません。何が正解かは分からない中ですが、私が思っている答えとしては、実際に苦しんでいる人が居るとしたら、それを利用して使って休もうとしている人も含めて、全員が支援対象、助けたい人なんだということです。その言葉を使って楽をしたいという人も、そう思ってしまうほど何かに苦しめられているんじゃないかなと思うからです。

――会社や組織に居る方々は「新型うつ」という言葉に悪い印象を持っている人も多いですよね。その人たちが、新型うつの特徴に挙げられる「遊びは出来るけど仕事は難しい」といった悩みを認識するのって中々難しいですよね。

石井:それはすごく大事で、ぜひメディアの人たちがやっていただけたら良いなあと。何がどう苦しいのか分からないから否定しているという人が多くて、分かればそんなに否定しなくても済むし、分かりたいけれど分からないというのがマネージャー層でもあると思うんです。そうした時にメディアの人が一例でも良いので、新型うつの苦しみを発信していただくことで、否定する人が減るのではないかなと感じています。

――最後になりますが、このWEBサイトは、挑戦する人を後押し出来たらという思いで始めました。最後に、石井さんから挑戦している、これから頑張ろうとしている大学生にメッセージをいただけたらと思います。

石井:大学生の時って、コミュニケーションに悩む時期で、誰しも自分に悩むし、人間関係に悩む時期だと思います。周りも同じように悩んでいることが多いと思うから、悩みすぎなくて良いということと、もしこういった周辺課題に関心があって何かアクションを起こしたいなという方が居たら、8月23日にLight Ring timeというイベントがあるので、ぜひ遊びに来てほしいなと思います。

一方で、そのプログラムを経験するだけでなくて、創っていく人も募集していて、そういったソーシャルベンチャーに興味がある人が居たら、ぜひエントリーしてほしいです。大学生の方って時間があることが多いのかなと思っていて、時間があることってすごく才能なんですよね。その時間に何かする、社会に還元出来る時間をLight Ringを活用してもらえたら、自分の良い経験につながってもらえたら嬉しいなあと思います。(エントリーはこちらから!)

*この記事は、「wanderer」から転載いたしました