「人間の手の限界を越えたことができるのです」。ロボットを使った先進医療について開かれたセミナー会で、藤田保険衛生大学病院宇山一朗教授は言った。

会場には低侵襲外科手術ロボットダビンチSiが設置され、デモンストレーションが披露された。宇山教授が操縦席に座り、コントローラーで操作をする。本体とペイシャントカートはケーブルで接続されており、ロボットのアームが動くという仕組みだ。特殊な鉗子を使い、あっと言う間に米粒に文字が書かれた。もはや人間の手を越える器用さだ。「従来の腹腔鏡手術では、このような複雑な動きはできない」と宇山教授は言う。(オルタナS関西支局長=神崎 英徳)

ダビンチを操作する宇山教授。本体は写真左手に見えるペイシャントカートと接続され、遠隔で施術を行う

ダビンチを操作する宇山教授。本体は写真左手に見えるペイシャントカートと接続され、遠隔で施術を行う

■進化する先進医療

外科手術で主流とされる「開腹手術」に加えて、1990年頃から「腹腔鏡手術」が登場した。「腹腔鏡手術」とは、患者の腹部に5〜20mm程度の穴を複数個あけ、そこから電気メスや鉗子、内視鏡を入れて行う手術。

開腹手術に比べて傷が小さく、入院期間が比較的短いなどの利点がある。一方で腹腔鏡の技術は学ぶのも伝えるのも非常に難しいというデメリットも否めない。腹腔鏡手術は、近年さらに一般的になりつつある。しかし「奥行きがわかりにくく、操作に制限があった」と宇山教授は言う。

では、従来の腹腔鏡手術とダビンチの違いは何か?「3Dハイビジョンのカメラを使用し、拡大視野を確保する。関節機能がついて鉗子がよく動く。そのため臓器を傷つけることなく手術ができる。

コンピューターが制御しているため、手の震えを補正し、細かい動きを精密にコントロールできる」。製造・販売元のインテュイティブサージカル合同会社社長、上條誠ニ氏はダビンチの利点を語る。

インテュイティブサージカル合同会社の上条誠ニ社長

インテュイティブサージカル合同会社の上條誠ニ社長

■保険適用がネック

ダビンチは2000年、アメリカで発売がスタート。日本では2010年から販売を開始した。現在国内では約180台が使用され、昨年度で約6千7百件の手術実績がある。しかし手術症例数は世界5位。

欧米では婦人科の領域での使用が約半数を占めるのに対し、日本では泌尿器科が9割を占めている。ネックは保険適用だ。厚生労働省から健康保険の適用が認められているのは、近年罹患者が急増している前立腺がんの手術のみだ。

もうひとつ要因には、ダビンチの価格がある。ダビンチSi1セットで2億4千8百万円。保険適用の認可を得るには、高額な機器に対する効果の証明が求められる。

米粒に文字を書いた後、巨峰の皮を剥くデモンストレーションが行われた

米粒に文字を書いた後、巨峰の皮を剥くデモンストレーションが行われた

「胃の摘出手術で、従来の手術とダビンチを使用した手術を比較したところ、合併症を抑えられた。難しい手術でも、安全に施行できる可能性を示している。厚生労働省には費用対効果の証明が求められるが、治療効果が上がることが本意なはず」と宇山教授は語る。

8月には腎臓の部分切除が先進医療として認められた。「今後は直腸がん、肺がん、子宮がん、また体の奥深くにある癌や進行癌に対しても保険適用を目指していきたい」と上條社長は抱負を語った。

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