訪日外国人旅行者向けのインバウンド系メディアが増えている。政府は訪日観光客数を増やす方針であり、その流れに乗って20代の若手経営者も動いている。彼らが立ち上げる新興メディアに共通するのは、一般から書き手を募り、原体験に沿った記事を書いてもらい、「ガイドブックにはない情報」を発信していることだ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

メディア名の、「ナニナニワン」の「ナニ」は、英語で「what」を意味する

ソーシャルリクルーティングが運営する何何網(ナニナニワン)」。メディア名の、「ナニナニワン」の「ナニ」は、英語で「what」を意味する

ソーシャルリクルーティング(東京・渋谷)は1月6日、中華圏からの訪日観光に関するバーティカルメディア「何何網(ナニナニワン)」をリリースした。同メディアでは、「食」「観光」「ショッピング」「流行」「動画」など5種類のカテゴリーに分かれたコンテンツを中国語で掲載している。毎日、5つのカテゴリーすべてのコンテンツを更新していくという。コンテンツ作成者は、同社の社員以外にも、中国のSNSを使って募集している。

同社は中華圏に対して絶対的な強みを持っている。同社は創業した2011年から、中国のソーシャルメディア(weibo、renren、we chat)を活用し、現地で採用支援事業を行ってきた。すでに月間リーチ数が最大で1000万人に上るなど、一定の影響力を持っている。

同社の春日博文社長は、「中国に住む若者にしっかりと情報を届けられるのが特徴」と話す。中国では情報規制があり、フェイスブックやツイッターができない。「フェイスブックやツイッターで中国人向けの情報を発信しても、中国からの留学生には届くが、現地に住む中国人までは届かない。このメディアで、日本の店舗や名産品・日常生活を、中国に住む若者たちとつなげたい」(春日社長)

日本に来る外国人観光客向けのウェブマガジン「MATCHA」(運営会社 Sen・青木優社長)は、英語、韓国語、インドネシア語など8言語から成り立っている媒体だ。同マガジンでは、東京・京都・大阪・岡山の名所や特産品、風習などを紹介している。

インドネシア人に、日本に興味を持ってもらうためMATCHAでは、おせち料理について紹介する記事も

インドネシア人に、日本に興味を持ってもらうためMATCHAでは、おせち料理について紹介する記事も

特徴は、書き手の「熱量」だ。書き手は各地で募集しており、自らがその地で体験し、自信を持っておすすめしたいことを書いてもらう仕組みだ。たとえば、「人気の格安居酒屋チェーン「鳥貴族」で日本人の日常に触れよう」、「真っ白なご飯を引き立てる、日本のスーパーで買える珍味3選。」「日本のトイレはお尻が洗える?ウォシュレットの使い方」など、クライアントありきで作成されたコンテンツではないため、書き手の人柄を感じながら、日本人が普段どのように生活しているのかを知れる。

旅行キュレーションメディアRETRIP(運営会社 trippiece・石田言行社長)もキュレーターという書き手を旅人から募っている。実際に旅行して思い出に残った体験を写真や動画を使って発信している。アジア、ヨーロッパ、アフリカなど世界各国のおすすめ旅行先・宿泊先が国別で紹介されている。

こちらの特徴はただ、絶景の写真や動画が掲載されているだけでなく、旅行した人の感想がついていること。随所に経験者のコメントがあることで、行きたい気持ちを高ぶらせる。

美しい自然と海を眺めながらのサイクリングは最高。広島の尾道と愛媛の今治を結ぶ西瀬戸自動車道でのサイクリングをおすすめした記事。RETRIPから

美しい自然と海を眺めながらのサイクリングは「気持ちがいい!」とのコメント。広島の尾道と愛媛の今治を結ぶ西瀬戸自動車道でのサイクリングをおすすめした記事。RETRIPから

これらのインバウンドにつながる新興メディアの特徴は、「ガイドブックにはない情報」だ。書き手は一般から募集する形をとっており、原体験があるので、思いを込めたコンテンツに仕上がる。

今の時代、観光客を呼び込むためには、豪華なホテルや天然の温泉など観光名所がなくてはいけないのだろうか。国内旅行者の宿泊旅行調査などを実施しているじゃらんリサーチセンターの副センター長である横山幸代氏は、「外国人が日本への旅行に求めるものは、贅沢なホテルではなく、日本人の生活体験にある」と話す。従来外国人向けの観光ツアーは多くの場合が大型観光施設に行くだけだったが、実は日本人がよく通っているすし屋や居酒屋に興味を強く持っていることが分かったという。

地域に感じる魅力のポイントが他人の日常生活へと変わった要因を、横山氏は、「均一化・均質化に対するアンチテーゼではないか」と見る。「例えば、露天風呂付きの部屋が人気だと紹介すると、日本全国に同じような部屋が出て、どれも同じようなものになってしまいます。モノに対する飽きよりも、均一化に対する興味のなさが勝っているのでは」。

訪日観光客は増えいている。2003年には521万人だったが、10年後の2013年には2倍となる1036万人を記録。政府は5年後の2020年に2000万人を目標に動いている。

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