第3回国連防災世界会議は3月18日、仙台市で開催され、新たな防災と減災対策の指針を採択し、5日間にわたる会議を終えた。初の首脳級を含む186の国や地域が参加し、各地で開かれた関連事業には、想定4万人を大幅に上回る延べ15万人以上が参加するなど、国内開催では過去最大の国際会議となった。宮城県色麻町と地元の積水ハウス 東北工場がこの会議のスタディツアー(被災地公式視察)先に決定され、24の国と地域から、関係者含め約200人が視察した。報道関係者向けに開かれたツアーに足を運んだ。(オルタナS関西支局長=神崎 英徳)
仙台駅から報道陣向けのバスに乗って約一時間。宮城県色麻町は、中心に二本の川が流れる平野の真ん中に位置する人口7000人あまりの小さな町だ。日本の穀倉地帯・東北の中でも古くから稲作が行われてきたライスフィールド・タウンで、車窓の外には、見渡す限り広大な田園風景が広がっている。水が張られると青空を映す巨大な湖に、実りの秋には黄金色の海原となった美しい光景が楽しめるという。
そんな田園風景の真ん中に、ソーラーパネルを外周に張りめぐらせた巨大な工場が突如現れる。積水ハウスの東北工場だ。このパネル全体で700kWの発電が可能。一般家庭の約233世帯分に相当するという。
積水ハウスは2014年5月、生産工場の防災力を高め、お客様や地域社会へ安全・安心を提供することを目的に、「防災未来工場化計画」を発表した。その先駆けとなっているのが、この東北工場だ。
同社は、色麻町と2013年9月に防災協定を締結。震災の教訓を踏まえ、官民連携で地域防災力向上に取り組んでいる。この締結に基づき、事務所棟と、住まいに関する技術を楽しみながら学べる体験型施設「東北・住まいの夢工場」(3,180㎡)を、災害発生時には避難所として活用することが決定。250人が寝泊まりできる避難スペースと7日間の防災備蓄が確保されている。
さらに、同社の「防災未来工場化計画」のひとつとして東北工場が注力しているのが、災害時にもエネルギーを確保できる「スマートエネルギーシステム」だ。先に述べたように、工場には700kWのメガソーラーが設置されているほか、容量2000kWhの蓄電池や225kWの発電機、LPGガスタンクなどが備えられている。これらによって、災害時には、事務所棟と避難所として活用する建屋に電力を供給できるだけでなく、水、ガスの供給も可能になるという。平時においては、工場エネルギー管理システム(Factory Energy Management System=FEMS)によって工場内主要設備のエネルギー利用状況はすべて「見える化」されて、エネルギー使用量削減に貢献している。
防災・減災においては、単に設備を整えるだけでは不十分で、それを扱える人や助け合いのコミュニティといったソフト面が決定的に重要だ。同工場では色麻町との防災協定に基づき、平時においても住民や地域組織と連携して実践的な防災訓練を定期的、計画的に行うことで、災害時に助け合える強いコミュニティづくりに貢献している。
色麻町は、町独自の取り組みとして、高速無線通信「地域WiMAX」を活用した「災害に強い情報連携システム」を整備している。災害時に万が一光回線など一般の通信手段が途絶えても、町独自に国や県からの多様な防災・災害情報を町に集約して、住民や公共施設へ一括配信を行うことが可能になる仕組みだ。
2014年10月19日に実施した「色麻町総合防災訓練」では、同工場に町の災害対策本部を設置して、スマートエネルギーシステムで確保したエネルギーを色麻町災害対策本部と避難所で活用することを想定した訓練が実施された。先進的な官民連携の形がより深化・発展を遂げている。
スマートエネルギーシステムによる災害時のエネルギー確保と活用、民間企業への災害対策本部設置、施設の避難所活用などの取り組みは、先進的な官民連携モデルといえるだろう。伊藤拓哉色麻町町長は、「東日本大震災で、町民の防災への意識は非常に高まっている。防災訓練には近辺の200人以上の住民が参加し、積水ハウス東北工場の取り組みに対し、『エネルギーや食糧が確保された、とてもよい避難所。いざというときの居場所ができ、安心だ』といった声を聞くことができた」と話す。
多様化・多発化する自然災害に対して、個人が万全の備えをすることは難しい。だからといって、行政やNPOができることにも限界がある。積水ハウスの取り組みは、地域と企業が互いに力を出し合いながら助け合う、ひとつの形を示しているといえる。
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