カンボジアでは、かつてないほどサッカーが盛り上がりをみせている。同国のFIFAランキングは181位(209カ国中)と低いが、史上初めてワールドカップの1次予選を突破し、国民の期待が高まっている。このタイミングに合わせて、日本の大学生たちが、同国でテレビが観られない子どもたちへ、「初めてのサッカー」を届けるために奔走している。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

学生団体WorlfFutでは、サッカーを通してカンボジアの子どもたちと交流する

学生団体WorlfFutでは、サッカーを通してカンボジアの子どもたちと交流する

6月16日、カンボジアの首都プノンペンにあるオリンピックスタジアムで、2018年ワールドカップロシア大会アジア2次予選が行われた。カンボジア代表はアフガニスタン代表と対戦したが、試合終了間際にゴールを決められ、0-1と惜敗した。カンボジア代表は、6月11日にも、同スタジアムでシンガポール代表に負けており、2戦連続での黒星となった。

試合には負けたが、同国代表への応援の声はやまない。5万人収容のオリンピックスタジアムは満員となり、観客たちは最後まで声援を送っていた。同国史上初めての2次予選に、都心部ではサッカーに酔いしれる日々が続いている。

一方、電化率の低い地方ではどうか。同国で3番目に貧しいプレイベン州にあるスマオン村では、グラウンドでサッカーをする少年少女の姿がある。しかし、その子どもたちは、「サッカーの試合を観たことはない」と口をそろえる。

同国の都心部では電化率が90%ほどで、インフラ整備もされているが、地方の電化率はわずか10%ほどだ。かろうじて電気は通っているが、テレビがない家が大半。あったとしても、チャンネルがなく、サッカーの試合を映らない。

貧困地域の子どもたちは、サッカー選手になりたいという夢は持っているが、テレビを持っていない。この不平等を解決するため、日本の大学生が動いている。カンボジアの子どもたちとサッカーを通して交流を続ける学生団体WorldFut(ワールドフット)だ。

同団体は、2008年からスマオン村の子どもたちとサッカー交流を行ってきた。日本で、夏と冬に大学生を対象にしたチャリティーフットサル大会を主催し、その収益金で、スマオン村に学校やグラウンドを建設したり、ビブスやマーカー、サッカーボールを送っている。毎年夏にはスタディツアーを行い、スマオン村の子どもたちとサッカーをして、絆を深めてきた。

フットサル大会では、カンボジアの現状や課題について参加者に教える時間もある

フットサル大会では、カンボジアの現状や課題について参加者に教える時間もある

今回、同団体はスマオン村の学校のグラウンドで、サッカーのパブリックビューイングを企画している。毎年、サッカーに関する支援を行ってきたが、パブリックビューイングは初だ。企画を実施するのは、9月3日。カンボジア代表が、埼玉スタジアム2002で日本代表と試合をする日だ。

ワールドフット代表の朝倉悠さん(明治大学政治経済学部3年生)は、「村中を巻き込んで、お祭りにしたい」と意気込む。

サッカーの試合を放送するだけでなく、アルビレックス新潟プノンペンと協力し、サッカークリニックも行う。パブリックビューイングを行うのに頼もしい大先輩も力を貸してくれた。ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアマネージャーの吉村司さんだ。

企画に協力する吉村さん

企画に協力する吉村さん

吉村さんは、南アフリカW杯(2010年)ではガーナとカメルーンで、ブラジルW杯(2014年)ではコートジボワールで、パブリックビューイングを実現させてきた。今回は、大学生たちのサッカーにかける情熱に共感し、ボランティアで企画に協力している。

スマオン村では、初めてサッカーが観られるということで、村長も副村長も当日は訪れる予定だ。

ただ、まだこの企画は確定したわけではない。パブリックビューイングを行うための、機材や放映権など100万円以上はかかる。

そこで、学生たちは、クラウドファンディングサイトで資金調達を行っている。目標金額は、120万円。学生たちはSNSを使って、協力を呼びかけている。

同団体は2008年、2人の大学生がサッカーで国際協力をテーマに立ち上げた。これまでに、団体内で協力しあい、数々の奇跡を起こしてきた。2010年には、フェアトレードのフットサルボールを600個手売りで販売し、その収益でスマオン村にグラウンドを建てた。さらに、2013年には、学生団体としては初めて味の素スタジアムでフットサル大会を開いた。

かつてのグラウンド。石が転がり、穴がありで、安心して走り回れないほど

かつてのグラウンド。石が転がり、穴がありで、安心して走り回れないほど

現在のグラウンド

現在のグラウンド。サッカーが頻繁に行われている

同団体がスマオン村を初めて訪れたとき、子どもたちから、「サッカー選手になりたい」という夢を聞いた。それがきっかけとなり、代が変わっても継続して同じ地域の支援を続けている。子どもと触れ合うたび、その純粋な瞳に、ハッとさせられるという。

ワールドフットが活動を続けて7年が経った。立ち上げメンバーらはOBOGとなり、朝倉さんで、6代目だ。先輩の思いを受け継ぎ、サッカー選手になりたいと夢みる子どもの背中を押す。

電化率100%に近い日本では、サッカーの試合をテレビで観ることは当たり前のことかもしれない。だが、初めて日本にテレビが来たとき、住民は集まり、ブラウン管に釘付けになった。スマオン村の子どもも、初めて映像を観た瞬間は、一生心に残るだろう。

筆者は、今回のプロジェクトが成功することを祈っている。無事、パブリックビューイングが成功することはもちろん、当日現地にいる学生たちが、当たり前に感じていたことで、スマオン村の子どもが感動する姿を忘れないでいてほしい。

カンボジアの農村からサッカー選手を輩出したい!サッカーの感動を、大画面で子どもたちに届けるプロジェクト!