オルタナSでは、地域や社会の課題に取り組む大学や学生の情報を発信する「地域創生+大学」が始まった。この企画では、大学を拠点にした地域創生(地方創生)の取り組みを紹介していくが、今回は「地域創生が若者に共感されるワケ」というテーマで書いていきたい。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

オルタナSでは大学生や若手社会人のソーシャルな活動を取材しているが、その取材を通して、年々、地域に興味を持ち出す若者は増えていると実感している。その理由はどこにあるのか。実際に、「地域活性化」をキーワードに活動する若者に聞いた。

「地域にはポテンシャルを秘めた、人・もの・ことがあるのに、それらのことが、十分に伝わっていない。もっと知ってほしいという思いが原動力」。こう話すのは、大学から地域活性化を行う佐藤柊平さん(23)。佐藤さんは、岩手県一関市出身で、明治大学に通っていたとき地域支縁団体ARCH(アーチ)を立ち上げた。同団体では、東日本大震災で被災した地域のコミュニティースペースづくりや東北産食品の販促活動などを行ってきた。これまでに訪れた都道府県は、30を超す。

佐藤さんは大学生のころから、復興支援イベントで何度も登壇してきた

佐藤さんは大学生のころから、復興支援イベントで何度も登壇してきた

大学卒業後は地域のプロモーション事業を行うココロマチ(東京・港)に就職し、今では公私で地域をキーワードにした活動をしている。佐藤さんは、20代前半の若者が地域に関心を持ち出す要因について、「震災復興の文脈が地域活性化に流れてきたのでは」と話す。

「911の衝撃映像や東日本大震災の揺れを体感したことで、価値基準が揺らいだ20代は多くいるはず」とし、「これまで非効率や古いとされてきた物事こそ、大切だと認識するようになった」(佐藤さん)

地域活性化に興味を持つ大学生というと、「まじめな若者」という印象を持つかもしれないが、地域に関心を持つイマドキの女子大生もいた。正能茉優さん(当時慶應義塾大学総合政策学部3年)と山本峰華さん(当時同学部4年)は2013年に、ハピキラFACTORY(東京・品川)を起業し、若い女性の感性を生かして地域産品のプロデュースを行っている。

ハピキラFACTORY代表取締役社長の正能さん(写真右)と副社長の山本さん

ハピキラFACTORY代表取締役社長の正能さん(写真右)と副社長の山本さん

これまで、小布施堂のかのこっくりや岐阜県大垣市の枡、同県関市の包丁などをプロデュースした。

2人が地域に興味を持ったきっかけは、長野県小布施町でまちづくりを学ぶ「地域づくりインターン」に参加したのがきっかけ。それまでに、小布施町とは縁もゆかりも無かったが、人柄や都会にはない暮らしぶり、ものづくりに掛ける思いなどに魅了されたという。

「地方を好む若者は少ないが、それは食わず嫌いなだけ。実際に見てみると、とんでもなくワクワクする場所。私たちが感じた地方の良さを全国の若者にも感じさせる機会をつくりたい」と、大学に通いながら起業することを決意した。クリスマスまでに、彼氏をつくるとしていたが、会社をつくった形だ。

今では、2人とも大学を卒業し、社会人になり就職をしたが、仕事終わりや休日を使って、ハピキラFACTORYとして活動している。

最後に紹介するのは、就職が決まっていたにも関わらず大学卒業と同時に、人口16人の限界集落に移住した坂下可奈子さん。坂下さんが移住したのは、新潟県の池谷集落。坂下さんは立教大学に通っていたが、新潟中越大地震のボランティアで毎年この集落を訪れていた。

今では、「移住女子」の象徴として注目される坂下さん

今では、「移住女子」の象徴として注目される坂下さん

ここのおじいちゃん、おばあちゃんたちと過ごすうち、自分の住む所はここにあるのではないかと思うようになる。坂下さんは、「惚れてしまったのかな、ここに」と振り返る。内定は決まっていたが、4年生の8月に決心し、翌年(2012年)の2月には移住した。大学の試験が終わって直後だったという。

移住したばかりの頃、彼女は池谷地区の分校の管理人として住み、集落の人たちに支えられ農業に従事した。

坂下さんに、池谷地区に惚れた理由を聞くと、「人がつながっていますよね、ここでは。弱みを見せても平気だし、普通の事がとても心地よいのです。その良さは、東京での暮らしの時には頭でっかちだったのかな、中々自分で認められなかった心地よさですね。ともかく口ではなく、体を動かす事が全てだと言うシンプルさ、ですかね。私をかわいがってくれているおじいちゃんから『ちゃんといいものを作ることと、食べてもらうことにしっかり集中するんだよ』と言われたけど、それが全てです」と話してくれた。

今では、結婚もし、子どもも生まれ充実した日々を過ごしている。

今回のコラムでは、「若者が地域創生に興味を持つ背景」について、3組の若者を通して書いた。ここに登場した3組に共通するのは、「その人に惚れたから」ということだ。

佐藤柊平さんが言うように、感性の多感な時期に、911や、リーマンショック、東日本大震災などを経験してきた若者の価値観は、上の世代と比べて、異なっていると私もそう思う。家や財や人が一瞬で消えてしまうことを、子どもながらに考え、その現実と向き合い、その結果、「本当に大切なものは何か。本当の豊かさとは何か」を求めるようになったのだろう。

その価値観を持った若者が地域で、伝統や文化を受け継ぐ人の熱意に触れて、心が動かされ、一歩踏み出している。

次回のコラムでは、「若者に受け入れられる地域の条件」というテーマで書きたいと思う。

・佐藤柊平さんの記事はこちらから
・正能茉優さんと山本峰華さんの記事はこちらから
・坂下可奈子さんの記事はこちらから

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