Magadipita連載記事第二弾として「Over the Rainbow」代表/ディレクターの佐野里佳子さんの講演をリポートする。SFCの卒業生ということもあり、自身の学生時代の思い出話と共に、講演はスタートした。(聞き手・MAGADIPITA支局=久保田 惟・慶應義塾大学総合政策学部1年)

佐野氏

「Over the Rainbow」の主な事業は公式HPを参考
 
現在、ガールズコミュニティは約一万五千人の規模を誇っており、ガールズならではの目線で、様々な事業を展開している。Magadipitaを発行 している学生団体S.A.L.のメンバーも多くコミュニティに所属しており、バングラデシュでバックを作るTo2bagなど、様々なプロジェクトが生まれたきっかけにもなった。

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実際のイベントの様子
To2bagの詳細ページ⇒ http://to2bag.com/

■ファッションで「社会問題解決を“自分ごと”」に

講演の中で、佐野氏は「社会問題解決を“自分ごと”にする事がどんな問題解決にとっても不可欠であると」と話す。例えば、HIVなどの感染症の防止。どんなに政府や企業がプロモーションをしても、個人が検査に行かなければ、解決できない。このように、社会問題解決と個人にはとても関係があり、どんな大きな社会問題も、その解決には社会全体を巻き込み、「個人レベル」での力が不可欠だという。それはエシカル・ファッションを購入したり、ボランティアをすることだけではなく、身近なところにも「エシカル」に行動する機会がたくさんあるとOver the Rainbow は考えている。

そして、原宿の直営店を基点に「持ち主だった人(社会問題解決に取り組む人や問題に直面している人=当事者)の物語付き」のヴィンテージアイテム発売し、ファッションを通じて10代〜20代のエシカルに関心のないガールズに「エシカルは特別な選択肢ではなく、問題解決には1人1人の身近なところでの行動が不可欠である事」を伝えている。

佐野氏は、社会と個人の接点を知る教育ツールとしてのファッションスタイルの確立を目指している。古代から現在までのファッションスタイルをリバイバルしたオリジナルラインもスタートしており、有名ブランドとのコラボレーションが決定している。例えばビキニ沖の原発実験の際に使用された原子力爆弾の“小ささ”を表現して生まれた水着の「ビキニ」、1920年代に戦時中、男性がいなくなり女性が働く様になった事で自立を訴えて生まれた「ボブヘアー」などは社会的背景を読み取る手段にもなる。

その様な事象が何気なく「可愛いな」と思い手に取った商品のタグに記載されている仕掛けになっている。ファッションは、二枚目の肌として捉えることもできる。人に自分をどう見せたいかを考える手段なのだ。それが、自分が社会の中でどう在りたいのかを考える機会、社会を学ぶ機会につながり、未来のファッション業界にとっても重要な事である。

情報の伝え方次第では、社会問題に無関心な人々が関心を持つきっかけにもなり得る。そのきっかけを通して、何気ない生活の中で、社会の課題や問題を身近に感じられるような自己変革が生まれるのだ。まずは、楽しむことで継続的な社会への関心を生むことが重要だ。そのような、社会と個人の接点を作ることが、社会問題解決への第一歩だと感じた。

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■誰もが魅力的だと感じる「共通言語」で語る

エシカル・ファッションが取り上げられ、企業のCSRにも関心が高まる現在。加えて、どうしても「エシカル・ファッション」を扱う人々のコミュニティは狭い。無関心な人が疎外感を感じることもある。さらに、“かわいそうだから買う”という一時的な同情から生まれる購買が多く、マーケットが大きく成長しにくいのが現状だ。その中で関心の有無にかかわらず、共通して「面白い」「魅力的だ」と思えるアイディアで社会全体を巻き込んでいく事が大切だと佐野氏は話す。その為にも、Over the Rainbowでは「エシカル」という言葉を使わず、ビジネスとして勝負する事の追求を徹底している。

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■ガールズによる社会問題解決

Over the Rainbowでは、商品を買い、社会問題解決が自分に関係がある事だと気付いた顧客がガールズコミュニティに入り、社会を変える活動をしている。組織運営の裏には、佐野氏の強い思いと地道な取り組みがあった。

社会問題解決が自分と関係があると思ってもらう事が難しいことではあるが、まず自分のことを話したいと思える場を用意することが重要になる。今でも佐野氏が参加するイベントを定期的に開催している。それらのイベントを通して、ガールズ目線での社会を変えるビジネスアイデアを創出し、企業や行政とのコラボレーションし事業化するという具体的なアクションにつながっているのだ。

学生から社会人まで幅広い層が参加しており、交流が盛んだ。その交流の中で、 自分のことを気軽に話す機会を提供しているのだ。その中で話される社会への問題意識は、多くの人のニーズである可能性は高い。佐野氏の理念の根幹にあるのは、「誰かを支援や助ける、社会に貢献する」という事への違和感だ。それらは客観的な視点でどうしてもその事に意識が向いている人だけが取り組む事になりがちだ。

しかし本来なら社会に貢献するのではなく、自分が属している社会で起きている事象の事であり、個々人が持つ当事者意識を尊重する事こそ、主体的で本質的だと考えている。その考えのもと、コミュニティ内のプロジェクトが自発的に活動できる環境を作り出しているのだ。またガールズ目線を生かすことで、企業や行政だけでは生み出せない新しいアイディアが生まれるのだという。そこには、女性が持つ感性が強く感じられる。

■ファッションを楽しもう

社会貢献に関心を持つ若者は増えた。しかし、何をすればよいのかわからない若者も多いはずだ。「アクションを起こそう!」と気を張らず、自分の着ている物にどんな意味が込められているのかを立ち止まって考えてみる事、身近な人や自分自身を慈しめているのかを一度考えてみる事など、遠い世界の事を考える事だけでなく自分自身がどう在るのかも問題解決への大切な第一歩だ。

まずは、 明日着る服を考えることから始めたいと私は思った。 次回は、12月27日にパタゴニア日本支社長の辻井隆行さんの講演をリポートする。

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