「母子家庭だから、サンタさんが来るのは10歳までなのよ」――クリスマスが近づくたび、福岡県に住む3人の子どもを持つ母親は子どもたちにこう伝える。経済的に余裕がなく、おもちゃを買うことはできない。しかし、「サンタは来ない」ということは本心では言いたくない。母親は「子どもにも、そして、未来の自分の子どもたちにもサンタさんはいると信じる心を持ち続けてほしい」と願い、毎年手作りのクッキーと牛乳を枕元に置く。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

日本社会では、6人に1人が「子どもの貧困」状態にあるとされている。その割合は毎年増え続けている。主に、母子家庭に多い。子どもの貧困の定義について、無料で子どもたちの学習支援を行う全国学習会ネットワークJLSN代表の犬飼公一さんは、「子どもが経済的困難と社会生活に必要なものの欠乏状態におかれ、発達の諸段階における様々な機会が奪われた結果、人生全体に影響を与えるほどの不利を負っていること」とする。

母子家庭の場合、およそ月14万円以下で暮らしている家庭のことを指す。給食費や授業料の滞納、そして、無保険のため、病院に通えない子どももいる。親の収入が少ないことで十分な教育が受けられず、進学や就職に不利となる。そのため、就職できたとしても、不安定で低賃金の職に就く人が多く、その子ども世代も貧困に陥る「貧困の負の連鎖」といわれる現象も起きる。

国の教育機関に対する支出も低く、OECD加盟国の中では最低クラスだ。民間企業からの支援も乏しい。安倍晋三首相が発起人となり10月に立ち上げた子どもの貧困対策の民間基金には、経済界からの大口の寄付が1件もないことが分かった。11月末で集まっているのは300万円ほどだという。

■3歳から就職活動

子どもにまつわる社会問題は、母子家庭だけではない。3歳から就職活動を始める子どももいる。これは、児童虐待防止のため、オートバイでのデモ行進をするハーレーサンタクラブが、児童養護施設で暮らす子どもたち向けに企画した就職支援イベントだ。

ハーレーサンタクラブが主催した就職支援イベント「お仕事ってなーに?」  写真提供:ハーレーサンタクラブ

ハーレーサンタクラブが主催した就職支援イベント「お仕事ってなーに?」  写真提供:ハーレーサンタクラブ

そのイベントには、3歳から10歳までの児童約100人が参加した。当日は、大工職人や警察官、消防士ら120人ほどが集まり、児童たちの職業体験をサポートした。このイベントでは、大人が児童らを誉めることで、職業についての理解や、大人への印象を変えていくことが目的とされている。

施設で保護されている児童は18歳になると卒園しなくてはならない。大学や専門学校に進学する割合は18.2%(厚生労働省2008年調査)と低く、73.4%が就職をする。この背景には就職を自主的に選択するというよりも、大学の学費と生活費面での弊害が存在する。

■フォローの手、卒園後にも

震災遺児や児童養護施設への支援を行うNPO法人BLUE FOR TOHOKU(ブルーフォートーホク)代表の小木曽麻里さんは、児童養護施設の子どもたちが抱える課題として、卒園後のフォローと指摘する。「卒園後の状況を把握できなく、どこで何をしているのか分からない」。国としても施設を卒園した子どもたちの現状把握は行っていない。

卒園者は、支度金を施設からもらうが、その額だけでは、マンションを借りて一人で生活していくのは困難だ。そのため、土木作業員として、住み込みで働く者が多いという。しかし、小木曽さんは、「長続きしないと聞いている」と心配する。

施設にいる子どもたちは、親から虐待やネグレクトを受けたことで小学生のときに、不登校になる子が多くいるという。そのため、「学力が足りなく、高校に進学できる子は少ない」と小木曽さんは言う。学歴で、就職先が限られてしまうという課題もあるのだ。

ブルーフォートーホクでは、毎年夏に、福島の児童養護施設の子どもたちを東京につれていくツアーを企画している。写真は、力士と相撲を取る子どもたち

ブルーフォートーホクでは、毎年夏に、福島の児童養護施設の子どもたちを東京につれていくツアーを企画している。写真は、力士と相撲を取る子どもたち

幼少の頃に受けた虐待や、施設に入ることで大人との接点が少なくなり、 大人とのコミュニケーションを避けてしまい、存分に就職活動ができないことや、大学や専門学校に通えないので、自分の適正な職業が分からないことで離職率も高い。

頼る親がいないことや、転職を繰り返すうちに、保証人との距離を子どもたちの方からとっていくようになり、お金を借りることすらできなくなる。

ハーレーサンタクラブ代表の峰たかしさんはオルタナS編集部の取材で、「施設出身のある女の子からは、風俗で働いていると言われた。『その落とし穴の危険性を子どもたちに教えてあげてほしい』と言われた事もある」と話した。

■動く、NPOサンタ

母子家庭や児童養護施設の子どもたちを支えているNPOがある。クリスマスシーズンに、子どもたちにプレゼントを届ける活動を行うNPO法人チャリティーサンタ(東京・三鷹)はこのほど、ルドルフ基金を立ち上げた。

「1年間がんばった子どもをほめてあげたい」とチャリティーサンタ代表の清輔さん

「1年間がんばった子どもをほめてあげたい」とチャリティーサンタ代表の清輔さん

同団体の活動は、寄付金(2000円)を払った親の子どもにサンタクロースに扮したボランティアがプレゼントを届けに行くという仕組み。2008年から活動を始め、これまでに訪問した家庭は5544軒、ボランティアは8193人に及ぶ。

全国に支部ができ、組織としても整ってきたが、寄付金を支払えない家庭には、届けに行くことはしていなかった。同団体の代表・清輔夏輝さんは子どもの貧困の深刻さに気付き、基金を立ち上げた。基金は、母子家庭や児童養護施設で暮らす子どもにプレゼントを届けに行くために使う。

同団体が実施したアンケート調査では、多くの母子家庭から、「仕事が忙しく、ほとんど会話出来る時間も無く、毎日寂しい思いをさせてます。当然、クリスマスプレゼントなど用意してあげられる余裕も無いです」という声が聞かれた。

清輔さんは、「プレゼントをもらった子どもも喜ぶが、あげた大人たちもハッピーな気持ちになれる」と言う。「誰かを笑顔にする幸せを感じてほしい」と呼びかける。

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