伊藤忠記念財団は3月4日、子ども文庫助成事業の贈呈式を開いた。小学校や公民館、図書館などで子どもたちに本の読み聞かせを行っている国内外71の団体・個人が助成を受けた。子どもの本離れが進むなか、草の根で活動を続けてきた団体に、「本の力」を聞いた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

伊藤忠商事東京本社で贈呈式が行われた

伊藤忠商事東京本社で贈呈式が行われた

伊藤忠商事東京本社には、2015年度に同財団から助成を受ける団体の代表者など約80人が集まった。同財団が子ども文庫助成を始めて40回目となる今回は、国内外の団体、個人を含めて167件の応募があった。応募があった団体へ同財団の担当者が訪れ、活動内容や成果について報告レポートにまとめる。選考委員はそのレポートをもとにして、助成団体の候補者を選出し、理事会にて決定した。

汐崎順子選考委員長は、子どもの貧困など、子どもにまつわる社会問題が顕在化してきたとし、本の力で子どもの心と身体を豊かにすることが求められていると話した。表彰分野は3つ。現金助成、図書現物助成、個人の顕彰で、それぞれ助成内容は異なる。

現金助成では、子ども文庫や小児病棟、養護施設などで子どもたちに読書啓発・指導を行っている民間団体・個人に対し、図書や機材の購入費用を助成するものなど。団体49件に1490万円を助成した。

図書現物助成では、国内外の文庫活動をされている団体に児童書を送るものなど、団体19件に250万円を贈呈した。そして、児童図書館などを20年以上運営し、子ども文庫普及に貢献してきた個人を功労賞として表彰した。

同財団は、次世代育成の一環として、子ども文庫への助成を1975年から行ってきた。これまでに助成した件数は2099件で総額は約10億円になる。

■文庫は「豊かな出会いの場」

松尾さんは子どもだけでなく、大人にも本に関する勉強会を開いている

松尾さんは子どもだけでなく、大人にも本に関する勉強会を開いている

宮城県仙台市で読み聞かせを行ってきた松尾福子さんは文庫歴38年。1977年、自宅で文庫を開き、本の貸し出しに加えて、おはなし会や工作会なども開いてきた。東日本大震災で被災した子どもへは、本だけでなく、お手玉なども届けた。

松尾さんは毎週水曜日と土曜日に活動し、これまでに読み聞かせを行った回数は3000回を超える。松尾さんは「文庫は、子どもたちどうしが楽しんで出会える場所」と言う。

松尾さんは大人向けにも本の大切さを伝えるための勉強会を行っており、「将来は文庫を開きたい」と志願する受講生も出たという。「私の役割は、これから文庫を開きたいと思う人の背中を少しだけ押してあげること」(松尾さん)。

■温かい「布絵本」

作成した布絵本を手に松村さん

作成した布絵本を手に松村さん

病院や施設にいる子ども向けに読書支援をする「よこはま布えほんぐるーぷ」の松村治美さんは布絵本を作って、無料で貸出を行っている。布絵本は、ストーリーから装飾まで、すべて同団体で考えたオリジナル作品だ。松村さんっが4代目の代表だが、これまでに100冊ほど作った。

毎月2回、ボランティアスタッフ30人が集まり、朝10時から夕方4時まで、布を切って、貼り付け、絵本を作る。ボランティアスタッフの平均年齢は75歳で、なかには88歳の人もいる。

松村さんは布絵本の良さを、「温かさがある」と言う。「本は子どもの心を豊かにする。幼いころに読み聞かせしてあげれば、本とつながりながら成長していける」となるべく早い時期から子どもに本と接する機会をつくることを勧めた。

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