伊藤忠商事は3月6日、明治神宮野球場で障がいのある子どもたちへの野球教室を開いた。小・中学生70人が参加して、元プロ野球選手から指導を受けた。青空の下、球場には元気に走り回る子どもたちの声が響いた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

元東京ヤクルトスワローズの熊田さんからノックを受ける子どもたち

元東京ヤクルトスワローズの熊田さんからノックを受ける子どもたち

伊藤忠商事は野球教室を開くことに際して、社員ボランティアを公募した。その結果、新入社員から役員まで72人が集まった。社員ボランティアは、当日参加した70人の子ども一人ひとりに付き添い、介護をするのではなく、友達になろうという気構えで、練習を見守った。

子どもたちは朝10時半から12時半まで、投球や打撃指導を受けた。徐々に、社員ボランティアとも自然に打ち解け、会話をするようになっていった。

子どもたち一人ひとりに社員ボランティアが付く

子どもたち一人ひとりに社員ボランティアが付く

野球教室は今年で9回目。これまでは神宮外苑室内球技場で行ってきたが、今年は初めて球場を貸し切った。コーチは元東京ヤクルトスワローズの選手である熊田智行さんと山部太さんが務めた。

この活動は、伊藤忠商事の社会貢献活動の一環。同社は社会貢献活動の柱の一つとして、次世代育成を掲げる。小野博也 広報部CSR・地球環境室長は「この機会に、スポーツの楽しさを存分に体感してもらえたら」と話す。

佐藤みきさんは小学1年生の長男そうきくん(7)を連れて初めて参加した。そうきくんはダウン症であり、突然大きな声を出すため、「他人に迷惑になってしまうから、外出は控えていた」と明かす。

「このようなイベントがあると積極的に外出しようという気持ちになるので、ありがたい。球場に入れる貴重な機会なので、のびのびと体を動かしてほしい」と話した。

子どもたちは各グループに分かれて、プロ野球選手が使うグラウンドでボールを投げ、バットを振った。同日は晴天に恵まれ、球場の解放感からか、初めは緊張していた子どもの顔にも次第に笑顔が見えるようになっていた。

コーチを務めた熊田さんは、「障がいを持つ子どもたちへ野球を教えたのは初めてだったが、予想以上に運動神経が良かった」と感想を話した。

■子を見守る親の嬉しそうな笑顔見て、ボランティアに

小学6年生の金子けんたくん(12)は脳症後遺症で、足を思うように動かすことができない。小学校は普通科に通っているが、週に1回特別支援学校に通う。外で遊ぶのは、特別支援学校に行ったときだけだという。

けんたくんの父勇一さんは、「野球が好きでよくテレビで観ている。野球は観るだけではなく、けんただって楽しんでプレーができるということを本人も分かってくれたらうれしい」と言う。

勇一さんはけんたくんが幼稚園に入ったころから、障がいがあることを伝えてきた。「社会の対応に期待するとともに、本人が障がいを理解することで、次にどう動けばいいのか自分で分かるようになる」。足の動きが遅いため、集団行動ではどうしても遅れを取ってしまう。「早めに動く準備が大切だよ」と伝える。

ティーバッティングに挑戦

ティーバッティングに挑戦

社員ボランティアとして4年続けて参加した男性社員は、ボランティアに手をあげ続けるのは、「子どもが上手くバッティングをしたとき、子どもよりも親のほうが喜んでいる。その姿から、子どもに寄り添ってきた親の気持ちが想像できた。何かしたいと思った」と話す。

野球教室の取材を通して、筆者が強く印象に残っていることは、社員ボランティアも言ったように「親の喜ぶ姿」だ。ある親から聞いた、「せめて家では、ありのままでいてほしい。学校ではみんなと合わせようとして無理をしているから」という言葉は忘れられない。

障がいのあるなしに関係なく、のびのびと野球を楽しむ子どもたちの笑顔が、親に伝わり、かかわった社員ボランティアにもその思いが届く。そうした循環を生んでいることが、この野球教室の最大の成果だと感じた。

最後に全員で集合写真

最後に全員で集合写真

伊藤忠商事では、障がいのあるなしに関係なく「いいものはいい。アートはアート」というテーマで、次回はアート展を開催する。

自閉症やダウン症、LGBT、体や心に障がいのある人から現代美術家、イラストレーター、絵本作家など、美術を学んだ人もそうでない人も参加する「Warm Blue」MAZEKOZE ARTⅡは、同社に隣接するギャラリー「伊藤忠青山アートスクエア」で。開催期間は、3月21日~4月18日まで。入場無料。詳細は、www.itochu-artsquare.jp

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