文部科学省は3月9日、教育CSRをテーマにしたシンポジウムを開いた。シンポジウムでは、青少年の間で、自然や運動、ボランティアを経験する「体験格差」が悪化していると挙げられた。教育へも影響する体験格差を是正するため、企業の役割を話し合った。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

教育CSRを推進していくために、担当者が議論した=3月9日、文部科学省で

教育CSRを推進していくために、担当者が議論した=3月9日、文部科学省で

同日、青少年への体験活動を推進している企業の表彰式が行われ、シンポジウムはその式の一環として開かれた。パネリストは、明石要一・千葉敬愛短期大学学長、青山貴子・山梨学院大学准教授、甫仮直樹・新潟県上越市立大手町小学校教諭、箕輪優子・横河電機CSR部、古波倉正信・琉球新報社営業局広告部副部長の5人。モデレーターは笹谷秀光・伊藤園常務執行役員CSR推進部長が務めた。

シンポジウムの冒頭、明石氏は小学校中学年時の体験活動は「その後のキャリアへも影響を及ぼす」と説明した。「小学校3~4年生までに体験活動が多ければ多い子ほど、自主性や規範性が伸びることが調査で分かった。そのような子は学歴が高く、年収も高い」。

教育困難校で体験活動の頻度を調査したが、進学校と比べて、体験活動が少ないことが分かった。明石氏は「体験格差が青少年の間で悪化している。学校だけでカバーはできないので、地域や企業と一体となってこの問題に取り組むことが期待される」と言った。

地域と連携した教育事例として登壇したパネリストは3人いる。横河電機は小学生向けにYOKOGAWA理科教室を2006年から開いている。理科教室のテーマは、光、電気、電波など同社の基礎技術。このほか、特別支援学校への次世代育成を行い、サッカーや水泳、茶道やハイキングなどの体験活動の機会を提供している。

琉球新報社は一般社団法人沖縄美ら島財団と組んで、2011年度から県内の小中学生向けに県内の自然や動植物を教える「新報サイエンスクラブ」を開いてきた。4年間で374人が参加し、子どもたちの科学の芽を育ててきた。活動内容は同社が発行する紙面にも掲載している。

新潟県上越市立大手町小学校は文部科学大臣指定の研究開発校として、オリジナルな取り組みで生徒たちの自立と共生を育んでいる。同校が全国に知れ渡ったきっかけは、豚の飼育だろう。出荷するために豚を飼育するが、生徒たちは何のために飼育するのかを学ぶ。甫仮教諭は、「体験活動後の、言語活動が大切」と話す。

同校では、豚の飼育以外にもお米の栽培や川の清掃などさまざまな体験活動があるが、それらすべての活動を振り返るための時間を設けている。生徒たちに学びを言語化させるのは、「自分で学びの意味づけができるようになるから」。

この豚の飼育の取り組みは地域とも連携している。豚の餌は農協から提供を受け、豚の健康を見守るため地域の獣医師が協力している。地域連携で子どもたちの体験活動を可能にしたのだ。青山氏は、「教育CSRで重要なことはかかわる団体でギブ&テイクではなく、共につくっていくことが大切。活動の対象となる子どもを主軸に置いて、お互いの連携を取っていくべき」と話した。

モデレーターの笹谷氏は、これからのCSRには、「発信型三方よし」が求められると断言する。「教育CSRは、企業にとって社員育成になり、パートナーは学びとなり、地域は活性化につながる。陰徳にするのではなく、ストーリーをつくって発信していくことが重要」とまとめた。

平成27年度青少年の体験活動推進企業の文部科学大臣賞を受賞したのは、大企業部門ではパナソニック、中小企業部門では、金沢大地。

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