大学生と社会人のつながりを生み出す「知るカフェ」が話題だ。そのカフェは東京大学や京都大学など11の大学のキャンパス前に位置し、一日の来客数は2500人を超える。学生同士の交流、採用イベントなどに利用されている。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

東京大学本郷キャンパス前の「知るカフェ」。キャンパスから徒歩2分にあり、座席数は47席

東京大学本郷キャンパス前の「知るカフェ」。キャンパスから徒歩2分にあり、座席数は47席

「知るカフェ」を運営するのは創業3年目のエンリッション(京都市上京区)。大学生・院生なら誰でも利用できる。このカフェの特徴は無料で利用できること。店舗内にはwifiやコンセントがあり、MTGスペースもある。コーヒーやジュースもあるが、これらはすべて無料だ。各店舗には、数社ずつスポンサー企業がおり、そこから収入を得ている。

スポンサー企業はカフェ内で、企業説明会などのイベントを開くことができる。オフィスと違って、カフェで話し合うので、素のままの学生と交流できると企業担当者からは評判だ。今年4月には、世界的に有名なインド工科大学にも「知るカフェ」がオープンする。

エンリッションを立ち上げた柿本優祐氏は現在28歳。同志社大学を卒業後、ソフトウェア企業最大手のワークスアプリケーションズ(東京・港)に就職した。同社で営業として2年ほど経験を積み、その後、独立した。

柿本氏は、大学生と社会人の接点が少ないことに問題意識を持っていた。多くの大学生は就職活動の時期に入ってから、社会人と出会い始めるので、うまくコミュニケーションを取ることができず、ミスマッチが起きる原因の一つとなっていた。

そこで、気軽に学生と社会人が出会える場として、知るカフェをつくった。カフェは大学1~2年生も利用しており、就職活動が始まる前から、社会人と接している。今後はシンガポールやタイ、マレーシアなどのアジア圏に伸ばし、その後、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などでの店舗運営も視野に入れている。

柿本氏は、「2018年までに100店舗に拡大することを目指したい」と意気込む。柿本氏は持ち前のアントレプレナーシップを生かし、海外展開に挑んでいる。

インド工科大学と契約を結べたのも、もともと同大学に縁があったわけではない。急成長するインド市場に目をつけ、即座に同大学に日本から国際電話をした。電話口では相手にされなかったが、そこで諦めず、インドまで行くことを決意。20時間のフライトで空港に着き、そこからタクシーで40キロ走り、同大学にたどり着いた。

インド工科大学で契約を結ぶ柿本氏

インド工科大学で契約を結ぶ柿本氏

事前にアポは取っていなかったが、「大学に入れればこっちのもの。学長の部屋を探せばいいだけ」。日本から来た若武者は、学長の部屋を見つけ、知るカフェの事業をその場でプレゼンした。学長から快諾の返事をもらい、こうして、同大学前に知るカフェがオープンすることになった。

柿本氏のことを新たな価値を生み出すイノベーション型人材、「クリティカルワーカー」として評価しているのは、出身企業であるワークスアプリケーションズだ。同社は、以前より国内の知るカフェのスポンサーになっており、フィールドは違えど同じ仲間として柿本氏の活躍を後押ししていたが、インド工科大学の話を持ちかけられ、このたび同大学でのスポンサーにもなった。

当初、スポンサーの金額は数千万円にも及び、同社の矢下茂雄・リクルーティング部門責任者は「リターンを考えると、見合わない金額だとも考えたが、CEOの牧野に相談したとき、『応援してあげよう』と返された」と話す。

同社の牧野正幸CEOは大学のキャリア教育に思い入れが強い。そのため、知るカフェのように、単なる座学だけでなく、実学を伸ばせる事業への評価は高い。さらに同社には、高い理想を目指した挑戦を推奨する文化があり、柿本氏の海外進出を支援することに決めた。

矢下氏は1986年から人材採用に関わる仕事に携わっており、前職では大手就職サイトの立ち上げにもかかわった。就職サイトができて、効率良く、学生は企業を探せるようになったが、その一方で、「出会いが希薄になった」と課題を指摘する。

同社では、売上高の約1割を採用に投資するほど、人材には力を入れている。矢下氏は、「知るカフェを通して、学生一人ひとりと向き合っていきたい」と話す。

「知るカフェ」はこちら

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