人権や教育分野などの社会起業家へ投資を続ける一人の男がいる。谷家(たにや)衛(あすかホールディングス取締役会長/お金のデザイン取締役会長)だ。谷家氏は「個性を120%表現できている社会起業家に惹かれる」と言う。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

社会起業家を支援する谷家氏

社会起業家を支援する谷家氏

谷家氏は1987年、東京大学法学部を卒業、ソロモン・スミス・バーニー証券に入社し、マネジング・ディレクターを務めた。その後、チューダー・キャピタル・ジャパンで運用担当ディレクターを務め、2002年にあすかアセットを設立した。

これまでに谷家氏が支援してきた団体は、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ、長野県軽井沢にある全寮制の国際高等学校インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)をサポートする認定NPO法人グッド・エイジング・エールズなど多岐にわたる。

谷家氏に社会起業家のどこを見ているのかたずねると、「ビジネスモデルや収益性も大切だが、事業を通して、自分を表現できているかどうか」と答えた。谷家氏は、組織はミッションオリエンテッドであるべきと考え、「ミッションの実現のために自分を表現できている人に惹かれる」。

谷家氏は上記のような非営利組織へは寄付として行うため、リターンは求めない。社会起業家へは「元本プラスアルファ」を求めるが、「銀行よりかはかなり低い」と言う。

■社会起業家が魅力的な理由

「これからの時代は、幸せの価値観は多様化していく。だから、自分の個性を積極的に表現する生き方が、かっこいい時代になる」。これは谷家氏が「個性」にこだわる理由である。

社会的課題を解決するビジネスモデル(ソーシャルビジネス)では、通常のビジネスモデルと異なる点がいくつかある。その一つが、顧客の数だ。例えば、貧困問題を解決する事業では、第一の顧客となるサービスの受益者は貧困に苦しむ人々なので、彼/彼女らからは対価を得ることはできない。その事業に共感した第2、第3の顧客からの売上や寄付、広告収入が必要になる。

そのため、市場規模を見込んで参入するのではなく、新たな市場をつくりだしていかなければいけない。ソーシャルビジネスを軌道に乗せるためには、高度なビジネススキルだけでなく、共感を集める人間性も求められる。

だが、そのような条件があるからこそ、「社会起業家に惹かれる」と谷家氏は言う。「社会問題に苦しむ人の痛みを知っていて、事業を起こすパッションもある。多くの起業家に投資する中で、個性を表現できている起業家が多いのが社会起業家」と断言する。

谷家氏が考える今後のキーワードは、「母性的」と「包括的」だ。SROI(社会的投資収益率)など投資の分野にも、社会性が求められていくなか、「社会的課題への関心はより高まっていく。そのなかで、母性的・包括的な考えをもった社会起業家がより出てくることを期待している」と話した。

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