「スタッフのモチベーションが上がらない」「自分の業務に追われてしまい、部下を指導する余裕がない」――NPOの幹部が抱える課題を、トヨタ自動車のノウハウで解決する講座が行われている。品質管理を徹底するトヨタ流のマネジメントがNPOを変えていく。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
この講座は、トヨタ財団が開いている「トヨタNPOカレッジ カイケツ」。同講座は公募で選ばれた30のNPO幹部が受講している。12月の成果発表まで5回講座を行う。受講生は6人1グループに分かれ、各グループにトヨタ自動車で品質管理に携わる現役・OBらが講師として1人付いた。
5月20日、第2回目の講座が開かれた。テーマは、「現状把握の検討」と「取り組むテーマ」について。朝10時から15時まで、受講生一人ひとりが組織の現状について発表し、その内容について、講師が意見した。
講師の古谷健夫・トヨタ自動車業務品質改善部主査は、「現状把握をすることは問題解決をするうえで、重要な意味を持つ」と言う。「主観ではなく、多くの客観的な事実を集めて整理すると、まったく違う一面が見えてくる。それを踏まえた上で、目指す方向を決めていかなければいけない」。
現状把握をする際、①顧客について②どのような価値(を生み出しているのか)③何を提供しているのか――の3項目に分けて、発表した。
■見える化して標準化
空き家を改修して、若者向けのゲストハウスをつくっている任意団体Cloud Japan(NPO法人申請中)の田中惇敏代表理事(23)が挙げた課題は、「スタートアップにおけるスタッフのビジョン共有」「役割分担の適切化」「巻き込み力」の3つ。
田中さんは、気仙沼で、スタッフ2人とシェアハウスをしながら、ゲストハウスを運営している。「一緒に住んでいるので、阿吽の呼吸がある」と言うが、他地域に展開するときに、ビジョンの共有ができるのか不安だと悩みを打ち明けた。
田中さんは、地域ごとに担当者に運営は任せる方針だが、「根っこのビジョンは共有させたい」と言う。田中さんが描くビジョンは、「ゲストハウスの運営を通して、若者が社会問題の解決に動くこと」。
講師の一人で、トヨタ自動車で40年以上、品質管理に携わっていた、河合武雄・河合WORK研究所所長は、「新しく進出する地域のことを考えるよりも、まず気仙沼のモデルを見える化して、標準化すること」とアドバイスした。「シェアハウスをして、心は共感し合っていると思うが、上手くいっている要因を数字やデータで表す。そのデータを標準化として、他地域に展開していくときの基準にするべき」。
障がい者の居宅支援を行うNPO法人たんと。(長野県佐久市)の飯島尚高理事長は、「スタッフのモチベーションが上がらず、後継者を育てられていない」と話した。
同団体を立ち上げて12年が経つが、「サービスの評判は良いのだが、育てていたスタッフが途中で辞めてしまう」と言う。この現状把握について、河合氏は、「モチベーションを向上させたいのは、何のためか理由を突き詰めるべき。そうすると、テーマが絞られていき、現状把握が明確にできるようになる」と伝えた。
第3回目の講座は6月に開かれ、今回の内容を踏まえて、「目標設定・要因解析」を行う。
■「相手ができないのは、教えていないから」
「相手ができないのは、教えていないから」――トヨタ自動車には、部下を育てるマネジャーの条件として、こんな言い伝えがあるという。「部下が失敗したときに、失敗を攻めるのではなく、プロセスに課題を見るべき。プロセスを改善しようとすれば、働き方の視野が広がる」(河合氏)。
河合氏は、「部下は一生懸命に仕事をしているが、ミスをするときもある。そのときに、上司は絶対に、その部下のせいにしてはいけない」と強調。職場の強み・弱みを理解して、プロセスを改善していくように働きかけるべきとした。
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