『18歳からの選択 社会に出る前に考えておきたい20のこと』(著:上木原弘修・横尾俊成・後藤寛勝、フィルムアート社)では、若者向けに、高齢化やストレス、いじめなど20の社会問題を解説している。社会問題の背景が複雑化するなか、高校生や大学生はどうすれば、それらの問題を「自分ごと」にできるのか。同書の著者3人に、高校生を連れて直撃した。(著:辻 陽一郎=NPO新聞代表、編集:池田 真隆=オルタナS副編集長)

取材に同行したのは、多摩大学付属聖ヶ丘高校1年生。著者の3人に素朴な疑問をぶつけた

取材に同行したのは、多摩大学付属聖ヶ丘高校1年生。著者の3人に素朴な疑問をぶつけた

地域理解へ、街に出よう

18歳選挙権が始まり、高校生や大学生の政治関心度に否応なく注目が集まっている。各メディアは、若者の投票率から論じているが、政治を身近に感じている若者はどれだけいるのだろうか。

著者の一人である後藤寛勝さんは、「政治を身近に感じるためには、まず自分の地域を知ること。街に出よう」と高校生に伝えた。後藤さんは22歳、現役の中央大学経済学部4年生。政治に関心を持ったのは17歳のときと振り返る。

著者の中では最年少の後藤さん。18歳選挙権について話した

著者の中では最年少の後藤さん。18歳選挙権について話した

「何も得意なことがないタイプだったから、みんなの得意なことを後押しできる職業につきたいと思っていた。実際に政治家と話す機会があり、さまざまな分野を後押しできる政治家という職業に憧れを抱いた」。

後藤さんはNPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」で代表理事を務め、若者と政治をつなぐ活動を行っている。高校生や大学生に政治家と対話する機会をつくっている。

後藤さんが代表を務める僕らの一歩が日本を変える。では、高校生100人と国会議員で憲法や社会保障などの議題をディスカッションするイベントを開催。会場にはメディアが殺到した

後藤さんが代表を務める僕らの一歩が日本を変える。では、高校生100人と国会議員で憲法や社会保障などの議題をディスカッションするイベントを開催。会場にはメディアが殺到した

後藤さん自身が政治を身近に感じたのは、政治家と話したとき。「政治家も人間なのだと思った」と当時を振り返る。「メディアでは悪い部分がフォーカスされ、伝わっていることが多いが、本気で社会を良くしようとしている政治家もいた。一緒に頑張りたいと思うようになった」と語った。

若者が政治に関心を持てない理由の一つに教育の課題をあげた。学校教育では、社会で起きていることに関する事実や論点だけを学んでいるとし、必要な教育は、「その論点に対して、僕たちがどういう選択肢を取ることができるのかをセットで教えること」と主張した。この考えを基に、地域の担い手を育む「票育」に力を入れている。

「ナナメの関係」のススメ

港区議会議員の横尾俊成さんは、NPO法人グリーンバードの代表も務める。同団体は、「自分たちが住む街をもっとキレイで、もっとカッコイイ街にする」を合い言葉に、街の清掃活動をしている。横尾さんが政治に関心を持ち始めたのは、地域でゴミ拾いをしているとき。

区議会議員とNPO代表という二足のわらじで活躍する横尾さん

区議会議員とNPO代表という二足のわらじで活躍する横尾さん

あるとき、横尾さんがボランティアで楽しくゴミを拾っていると、雇われてゴミ拾いをしているおじさんに出会った。そのときに、「自分がやりたいことを奪われた気がした」と言う。「街をキレイにするために税金に頼り切ることなく、ボランティアを巻き込み、自分たちの力でなんとかするほうが良いと思った」。

「政治家は選択肢をつくることが仕事」。区議会議員として、政治家の役割を高校生にそう伝えた。そして、政治は遠い世界で起きていることではなく、自分たちの生活一つひとつに関わっているのだと強調。

「こんな社会をつくりたいと思ったときに使えるのが政治。政治に興味がないっていうのは自分の生活に興味がないってこと」

横尾さんは高校生たちに「ナナメの関係」を持つことを勧めた。ナナメの関係とは、年齢の異なる人と付き合うこと。グリーンバードがまさに異世代型コミュニティーであり、高校生がこのコミュニティーに参加することはいじめ問題にも有効だと考える。

横尾さんが代表のグリーンバードは国内70地域にチームがあり、海外にもイタリア、ガーナ、シンガポールなど10カ国に展開している

横尾さんが代表のグリーンバードは国内70地域にチームがあり、海外にもイタリア、ガーナ、シンガポールなど10カ国に展開している

「いじめられたときに居場所が学校か家庭しかないと逃げ場がない。地域コミュニティーにも居場所を持っていれば、逃げ場となり、助けてくれるはず」と述べた。

半数の仕事がITに代替

博報堂ビジネス開発局シニアマーケティングディレクターの上木原弘修さんは、高校生へキャリアデザインの考え方を話した。

博報堂でソーシャルマーケティングを研究してきた上木原さん

博報堂でソーシャルマーケティングを研究してきた上木原さん

人工知能はいずれ人間の知能を上回るとされ、いまある仕事の半数近くが代替されるというレポートがある。上木原さんは、「いま人気のある仕事も20年後にはどうなるか分からない。若いうちから世の中にどんな仕事があるのかを広く知っておく必要がある」と伝えた。

学校のテストとは違い、明確な答えのない社会では、自分で答えが見つけられずに、働きがいを失い、くじけそうになることもあるだろう。上木原さんは、自分のやりたい仕事を見つける方法として、「何かに打ち込んだ体験」と「ネットワークを広げること」の2つが重要とした。

「若いうちに、何かに打ち込んだ体験、フロー体験と言われるが、そのような体験をして、異なるバックグラウンドを持った多様な人と話し、いろいろなネットワークを広げておくこと。これがやりたい仕事を決める力につながっていく」と話した。

同書は、後藤さん(20代)、横尾さん(30代)、上木原さん(50代)が執筆し、40代の編集者がまとめた。異なる世代で社会問題を議論して書き進めた

同書は、後藤さん(20代)、横尾さん(30代)、上木原さん(50代)が執筆し、40代の編集者がまとめた。異なる世代で社会問題を議論して書き進めた

最後に著者を代表して、後藤さんから高校生へメッセージを送った。「高校生は『高校生ブランド』を生かして、地元の議員に積極的に話かけてみてほしい。政治家は若い人からの意見を聞きたがっている。高校生から働きかければ、必ず場を設けてくれる」と伝えた。

・『18歳からの選択 社会に出る前に考えておきたい20のこと』(著:上木原弘修・横尾俊成・後藤寛勝、フィルムアート社)

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