「無理して周りに合わせるのではなく、好きなことを突き詰めて、自信を持ってほしい」――。発達障がいの子どもを持つ、中里祐次さん(34)は語気を強める。中里さんは、発達障がい児と専門知識を持つ東京大学の学生らをつなげ、子どもの才能を伸ばすサービスを開発中だ。子ども想いのベンチャー社長が発達障がい児の「孤独」をなくしていく。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

レゴを楽しむ中里さんの子ども

レゴを楽しむ中里さんの子ども=東京大学で

中里さんは早稲田大学を卒業後、IT大手のサイバーエージェントに入社。子会社のサイバー・バズで広告クリエイティブのディレクションを担当し、2008年には、東京インタラクティブ・アド・アワードを受賞した。2013年に7年間務めた同社を辞めて、ITベンチャーのWOODY(ウッディ)を創業した。

現在、中里さんが開発中のサービスは、Branch(ブランチ)。発達障がい児と先生のマッチングサイトだ。ここでいう先生とは、一般的な塾の講師ではない。東京大学で最先端科学を学ぶ学生や、独特な絵の才能を持つ美大生など、一芸に秀でた人物のことを指す。そのような先生と発達障がい児をつなげ、その子どもの才能を伸ばしていく。

発達障がいを持つ人は、外見では分かりづらいが、目線を合わせようとしなかったり、うまく言葉を選べないなど、対人関係を築くことに困難を持つ。小中学校の通常学級では16人に1人程度が在籍している(2012年文部科学省調べ)。

集団生活を円滑に送るための社会的スキルが不足しているが、興味を持ったことへの集中力は人一倍高い。一目見ただけで、多くの文字を暗記できたり、小学校低学年で大学生レベルの数学問題を解けたりする。

マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やハリウッドスターのトム・クルーズ氏も自身で公表している。

中里さんの長男は小学3年生。自然に関する図鑑や歴史が好きで武将の本をよく読んでいるという。図鑑で培った知識と語彙力は、大人顔負け。豊富な語彙力ゆえ、言い合いになると、相手の態度や表情を顧みずに、完膚なきまでに相手を論破する。

このことから、一部の生徒からは変人扱いを受けたこともあったという。子どもから、「学校に行きたくない」と打ち明けられたこともあった。

■「否定しないで、自信をつけて」

今年5月、中里さんは息子を連れて、東京大学の文化祭に行った。目的は、東大レゴ部に会いにいくため。子どもが憧れのレゴで楽しむ姿を見たときに、このサービスを思いつく。

発達障がいの子どもは、その興味分野に精通した大人と出会えれば才能を伸ばせると思ったのだ。中里さんは、「集団生活に馴染めないことで、自分のことをダメだと思ってしまう子が多いが、好きなことを伸ばしていけば自信を持てるようになるはず」と言う。

サービスを企画するために、約100人の発達障がい児を持つ親にヒアリングし、課題を可視化した。そのなかで、「才能を伸ばしたいが受け入れ先がない」というニーズを事業化できると考えた。

現在は、子どもたちの先生を集めるため、都内の大学を訪問する日々。子どもの興味は一人ひとり異なるため、多様な専門知識を持つ先生が必要になる。生物や数学、絵、レゴ、ロボット、折り紙など複数の分野の先生が求められるが、「参加したい」との連絡を多く受けているそうだ。

先生役を引き受ける学生たちからは、「実は私も発達障がいだった」という声をよく聞くという。自分と同じ症状で苦しむ子どもたちのために何か力になりたいと集まってくるのだ。

利用料は、1時間あたり交通費別で2000-1万円。オプションとして、月1万円で、その子どもに合ったオリジナルカリキュラムを作成する。当面は、対面での指導となるが、将来的には、PC画面からでも指導を受けられるようにし、利用価格も低価格にしていくという。

クラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」で、事業の立ち上げ資金を集めている。9月7日に開始して、その日中に目標金額の100万円を集めた。9月21日時点で131万7000円が集まっている。ブランチのサービス開始は10月を予定している。

・Makuakeで掲載中のプロジェクトはこちら

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