武蔵大学社会学部メディア社会学科松本ゼミは11月9日、高円寺で、「ITの未来とこれからの若者の生き方」というテーマでトークイベントを開いた。登壇したのは、ヤフーの社会貢献担当者と分身ロボットを制作したロボットコミュニケーター。ITと生きがいと社会貢献の関係性について話は及んだ。(武蔵大学松本ゼミ支局=高橋 里奈・武蔵大学社会学部メディア社会学科2年)
トークイベントのゲストは、ヤフーの箕輪憲良・社会貢献推進室公益活動支援リーダー、オリィ研究所を立ち上げた、吉藤健太朗・代表取締役所長。司会は前半を松本ゼミ3年の西樹利香と2年の市川仁菜が、後半を3年の西樹利香と鈴木志帆が担当した。
イベントの前半ではゲスト2人が現在行っている事業についてプレゼンを行った。
箕輪氏はヤフーの社会貢献に対する考え方について語った。ヤフーのミッションは課題解決。情報技術で人々や社会が抱える課題を解決している。同社の強みは、検索エンジンだという。利用者数は、一日平均で、日本の人口の約半分に該当する。そこで同社では、その強みを利用し、ユーザーと社会問題をつなげれば、課題の根本的解決になるのではないかと考えた。
ネット募金やYahoo!ボランティアというサービスを立ち上げ、ITで課題解決を行っている。東日本大震災のときは、電力不足回避のためにYahoo!JAPANのトップページに東京電力の電力メーターを掲載した。ユーザーの自主的な節電を働きかけた。
同社の社会貢献活動には、具体的にいつまでに何をするのかを定めた長期的な戦略はあえてなく、社会の課題を解決するという理念のみが存在する。ユーザーを社会問題とつなげることで、ユーザーが自主的に課題解決へ動くように促している。
■分身ロボットで「生きがい」
吉藤氏は、遠隔操作で周りを見渡したり、腕を動かしたり、会話ができるOriHime(オリヒメ)という分身ロボットを制作した。トークライブでは、このオリヒメを会場に持ってきて、岩手県の病院にいる、寝たきり状態の番田雄太さんとつなげた。オリヒメを使い始めたことによって、今までできなかった経験を積み、人とつながり、社会参加ができるようになったと番田さんは話した。番田さんは現在、オリィ研究所の社員として働いている。社会に参加し、誰かの役に立ち、生きがいを感じているという。吉藤氏は現在、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という筋肉が硬化して動かなくなる病気の患者のための、目だけで動かすことができるオリヒメの開発に成功し、力を入れているそうだ。
吉藤氏がこのロボットを制作したのは、自身が不登校だったことがきっかけ。吉藤氏は、小学5年から中学3年までの間、不登校だった。孤独を経験したことで、病気や怪我で外に出ることができない子どもやお年寄りの孤独を解消したいと考えた。
■「現場へ足を運んで」
後半では、会場や司会の2人の声を交えながらディスカッションを行った。箕輪氏も吉藤氏も、社会貢献をしていく上で重要なことは実際にその問題が起きている場所へ足を運ぶことだと話した。
テレビやネットで見ただけでは課題の解決方法やプロセスは見つからない。自分の目で確かめ、自分がそのために何をするべきかを知り、意識改革を起こすことが必要だと強調した。
これから社会に出ていく我々大学生に対して、今のうちに様々な経験を積むよう呼び掛けた。大学生は社会人と違って、誰かと会う時に自分の肩書を気にする必要がない。対価があろうとなかろうと相手は快く受け入れてくれるはずとした。
その学生特権を活用し、人と違うスキルを磨き、試行錯誤し、時間をかけることで本当に自分のやりたいことを見つけることができるだろうと話した。
番田さんは障害を持つ人からの意見として、「障がい者は特別扱いされるべきものではなく、障がい者自身も何かやりたいと感じている。助けられてばかりではなく、一人ひとり「が社会に参加することが生きがいにつながる」と話した。
それに対してゲストの2人は、「人は人から必要とされ、明日に希望を持てるかどうかで生きがいを持てる。だから社会貢献は生きがいにつながる」と話した。
イベントの最後に吉藤氏は「社会貢献は生きる方法に過ぎないものであり、正解や答えはない。そして必ずしもやらなくてはいけないものではない。よく考えて時間やお金の使い道を決め、自分の未来を定めればよい」とまとめた。
箕輪氏は、「進路ややりたいことについて考えると、その精度が上がるが必ずしも答えが出るとは限らない。精度を上げつつ、人との出会いや、楽しさ、感動、やりがいも重視することで、自分自身も死ぬまでハッピーな人生を送ることができるのではないか」とメッセージを送った。
■司会を務めて
今回のトークイベントを通して、社会貢献に対する意識が自分の中で大きく変化した。以前は、社会貢献はしなくてはいけないという義務感があった。本来持っていた、誰かのために役に立ちたいという気持ちを忘れかけていたが、大切なのは自分がやりたことや誇りを持てることをやり通すことであり、それが誰かの役に立てることだと学んだ。
社会貢献はされる側に生きがいを与えると同時に、する側も誰かの役に立つことで生きがいを感じることができるのではないだろうかと考えた。これから自分の進路を明確に定め、将来に役立てるためにも、人と違った経験を積まなくてはいけないと改めて感じた。残された2年半の大学生活を有効活用し、大学生の特権を生かし、様々な事に挑戦し続けたいと思う。
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