名水のまちとして知られる福井県大野市は2016年から、地方創生の新たな試みとして、東ティモールへの水支援を展開している。東ティモールは、アジアで最も安全な水を確保できる人口の割合が低い国だ。大野市は2017年から3年間で30万ドル(約3400万円)を拠出し、山の湧き水を麓に引く給水施設を設置する。1月28日には、市内で現地視察報告会が行われた。(オルタナ編集部=小松 遥香)

雪に覆われる大野市の冬

福井県東部に位置する大野市は、山々に囲まれた自然豊かな名水の町として知られる。人口は約3万4000人。市内の至るところに「清水(しょうず)」と呼ばれる湧水地があり、古くから市民に親しまれてきた。

今回の支援では、日本ユニセフ協会を通じて、東ティモールに3年間で6基の重力式給水システム(GFS)を設置する。GFSは標高の高い場所にある水源(泉や湧き水)から重力を利用して水道管で麓まで水を設備で、山岳地帯の広がる同国に適している。

最初の2基は、2017年7月に完成する。大野市は国内外のNGOと協働して、GFSを設置した後も管理や徴収制度の指導、学校での啓発授業などを支援していく。

■アジアで最も水道の普及が遅れている国・東ティモール

東ティモールは21世紀最初の独立国。インドネシアとの24年にわたる紛争で、2002年の独立までに約20万人が亡くなった。人口約120万人のうち4割が14歳以下という若い力にあふれた国だ。

だが、アジアで最も水道の普及が遅く、5歳未満の死亡率もアジアで2番目に高い。汚れた水や不衛生な環境から下痢などの予防可能な病気にかかり、亡くなる子どもも多い。GFSを設置することで、支援対象であるエルメラ県とアイナロ県に暮らす約3300人が安全な水を使えるようになるという。

支援する地域の子ども達は、毎日1時間半かけて水を汲んでいる

「水道の整備はとりわけ遅れている。水を使って手を洗ったり、他にも色々なものを水で洗えるレベルにすることは、駐在期間中に成し遂げられなかった。大野市の支援で、水の問題が少しずつ解決されることが嬉しい」

視察報告会に参加した、元ユニセフ・東ティモール事務所代表の関西学院大学久木田純教授は、4年間の駐在をふり返る。

視察報告会で「支援を通して、お互いに学ぶことがあるだろう」と話す久木田教授

2016年10月、大野市の今洋佑副市長と職員2人はGFSを設置する東ティモールの集落を視察した。

吉田克弥・大野市企画財政課結の故郷推進室長は、「大野では簡単に安全な水が手に入るので、生水がまったく飲めないことに驚いた。何もない国だが、みんな明るかった。子どもたちの笑顔と挨拶の習慣が良かった」と語る。

報告会で市民の意見を聞く、今洋佑副市長(左)、市役所の帰山寿章室長、吉田克弥室長。東ティモールの伝統織物タイスを首にかけている

今洋佑副市長は、「今回の支援を市民全体の活動にする必要がある。これからは、水だけでなくスポーツ交流なども通して、市民と東ティモールの人との直接交流の場を増やしたい」と意気込む。

■なぜ国際支援が地方創生につながるのか

大野市が支援を始めた背景に、人口減少問題がある。同市の場合、県外への流出よりも県内への流出人口が多い。希望する仕事が少ないこと、道路が整備されていないことが要因だ。現在、道路の整備は進められており、約30キロ離れた福井市への移動の問題も解消されている。

こで、大野市は2015年から市のアイデンティティである「水」をつかったブランディングの一環で「水への恩返しCarrying Water Project(キャリングウォータープロジェクト)」を進めている。

同市は、国内でも有数の水対策を行い、良質な水を守ってきた自治体だ。水を通した国際支援を行うことで、大野の水が世界に誇れることに気付いてもらい、ふるさとに自信と誇りを持ってほしいという思いが今回の支援に込められている。

国際支援を含めた同プロジェクトの事業費は、募金やふるさと納税で確保する。募金箱は市内の商店など220カ所に置かれており、越前大野名水マラソンなどのイベントでも支援金を集めていく。事業開始から一年半で、1000万円を超える支援金が集まった。

視察報告会の参加者の一人、管工業を営む山岸謙さんは、水が漏れている水道管の写真を見て、「修理技術を教えることでも交流していきたい」と話した。

■東ティモールのコーヒーで地元に恩返し

こうした市の取り組みを支える人たちがいる。市内でコーヒー店「モモンガコーヒー」を営む牧野俊博さんは2016年2月、同じく自営業の山岸謙さんと伊藤修二さんとともに団体「CROP(クロップ)」を立ち上げた。東ティモールのコーヒーを販売し、利益の一部をキャリングウォータープロジェクトに寄付する活動をしている。

大野市の市街地にあるモモンガコーヒーでは、自家焙煎した豆を使い、丁寧にコーヒーを淹れてくれる

クロップを始めたきっかけについて、「地元愛です。僕らなりの恩返しを大野にしたい。市が東ティモールを応援するなら、その市を応援しようと思った」と牧野さんは話す。

東ティモールは、全世帯の25%がコーヒー豆農家だ。コーヒーを通した支援は、経済面だけでなく同国の文化を伝える役割も担う。クロップのコーヒー豆は、牧野さんの店のほかにも市内の喫茶店で使われ、イベントでも販売されている。

大野の地下水を使ったコーヒーは、透き通った味がする。「コーヒーには、豆だけじゃなく水の美味しさも大切です。大野の水で淹れるコーヒーはやはり違います」と笑顔で牧野さんは話してくれた。

天空の城 越前大野城でも有名な大野市
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Carrying Water Project

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