国際交流基金は2月28日、地域に根ざした先進的な国際文化交流を行っている団体を表彰する「国際交流基金 地球市民賞」の授賞式を開催した。熊本地震で外国人被災者に対する支援を行った「熊本市国際交流振興事業団」など3団体を表彰。授賞式には約180名が参加し、皇室関係者も御臨席された。(NPO新聞代表=辻 陽一郎)(PR)
■地球市民賞の受賞団体が100団体に
国際交流基金の安藤裕康理事長は、「低成長と少子高齢化社会に突入した21世紀の日本が、より豊かな社会を築くためには活力を取り戻すことが必要です。そのためにも異なる文化と交流して、日本各地の文化を見つめなおすことが重要になってきています。国際交流基金は今後も地球市民賞を通じて地域に根ざした国際文化交流を行う団体を応援していきます」と挨拶した。
今年度受賞したのは、熊本市国際交流振興事業団に加えて、「ノルテ・ハポン(コスキン・エン・ハポン開催事務局)」(福島県川俣町)、「硫黄島地区会」(鹿児島県三島村)の3団体。ノルテ・ハポンは、南米の民族音楽「フォルクローレ」を通じて41年間、アルゼンチンなどラテンアメリカの国々との交流に尽力し、地元が誇れる文化に発展させた。硫黄島地区会は、人口約120人の小さな島で日本を代表する「ジャンベスクール(西アフリカの伝統的な打楽器・ジャンベを教える音楽学校)」を開設し、地域に根付く文化に育ててきた。
1985年に創設された同賞の受賞団体数は、今年で100団体となり、国際交流基金では記念冊子「地球市民賞100」を作成し、これまでの受賞団体の活動内容を紹介している。それぞれの団体は時代のニーズに応えて運営の形態を変えながら、活動を継続している。
今年度は全国各地から133件の応募があった。石井幸孝委員長をはじめとする選考委員7名が、先進性や将来性など5つのポイントから選考を実施。書類審査・現地調査を経て今回の3団体が決定した。
石井委員長は、「代々日本人が育んできた平和的な文化は、紛争が続く今の世界にとって貴重なものではないでしょうか。文化を軸にした国内および海外との交流が重要になってくると思っています。受賞団体の皆さんにはいっそうの活躍を期待しています」と話した。
■熊本地震で在住外国人や外国人観光客を支えた
受賞団体の一つである熊本市国際交流振興事業団は、日常的な国際文化交流が人と人とのネットワークを築き上げ、災害時に役立つことを示した。昨年4月に発生した熊本地震。地震を初めて体験する熊本の在住外国人や外国人観光客にとっては、恐怖と不安に襲われる事態となった。
同団体の吉丸良治理事長は、「地震に遭遇して、本当にどうしたらいいのか目の前が真っ暗になりました。私たちがそうなのだから、外国人の皆さんは本当に大変だったと思います」と当時の状況を語った。
熊本地震の特徴は14日と16日、二度にわたり大地震が起きたことだ。14日の地震直後、同団体の活動拠点でもある国際交流会館に避難所を開設した。訪れる人が少なかったので一旦閉鎖したが、16日に再び大地震が発生。一度目の地震がおさまり、安心した矢先のできごとだった。
パニックになる人も多く、家に帰れない人も出てきた。日本語が分からない外国人は、いま起きていることや避難指示も理解できない。
朝4時に避難所を再び開設した。すると中国人や韓国人、タイ人、フランス人、米国人などの地域に住む外国人や外国人旅行客が殺到した。特にパニックになっていたのは観光客だったという。
「地震の状況などを日本語以外の言語で知りたい人、すぐに母国に帰国するために飛行機を予約したい人、さまざまな支援を求める声があり、対応に追われました」(吉丸理事長)
国際交流会館は行政から避難所に指定されていなかったが、日頃から利用している外国人被災者が避難してきた。口コミで避難できる場所であることを知り、他の被災者にも情報を広げていった。国際交流会館では避難情報を12言語に翻訳し、インターネットで情報発信も行った。二度目の大震災が起きた当日は147人が国際交流会館に避難し、そのうち38人が外国人だった。
■被災した地域在住の外国人ボランティアが活躍
「職員だけでは手に負えない状況でした。日頃からボランティアに登録してくれている人や外国人自身も支援者側になってくれました。毎日毎日炊き出しや避難者への対応にも協力いただいて、なんとか安心できる環境を整えることができました」と吉丸理事長。
そのなかでも、被災した外国人らが自らボランティアとして支援を行ったことで、多くの人が救われたという。炊き出しの手伝いをしたり、水を配ったり、さらには、外国人観光客に帰国するチケットの手配方法を伝えたりと、自分たちも被災したが、困っている外国人を助ける姿がそこにはあった。
彼らへは事業団から呼びかけたわけではない。「この町に住んでいるから熊本のために何かしたい」という在住外国人たちが、自発的に集まった。市と連携して、連絡が取れない熊本在住の外国人の家を50軒ほど回り、安否確認も行った。
■日頃からの国際文化交流が減災につながる
熊本地震で外国人ボランティアが活躍した背景には、日頃からの国際文化交流があったからだ。国際交流会館の二階では、外国人のための日本語教室を毎週のように開き、多言語で相談を受け付けている。
吉丸理事長は「多言語での交流の場をいつも設け、それが日常化しています。いざというときに助け合えるサイクルは突然できるものではありません」と強調した。
熊本地震のもう一つの特徴は余震の多さ。小さい地震も含めると4200回に及んだ。慣れない避難所生活や、相次ぐ余震に、心が壊れそうになることもあった。言葉も文化も違うさまざまな外国人と日本人が日頃から地域社会で関係性を構築していたことで、多くの人の心を支えることができた。
人と人とのつながりは突然生まれるものではない。日本人も外国人も分け隔てなく交流できる多文化共生社会の実現は一朝一夕にはいかない。
しかし、災害大国日本ではいつどこで地震や台風が起こるか分からない。日頃から国際文化交流を続け、地域社会での関係性を構築することが災害時の多言語対応につながったことは、地方におけるコミュニティ形成のあり方としてひとつのモデルケースになりうるのではないか。
外国人との共生や音楽を通じた国際交流など、人々が幸せに生きる上で国際文化交流は重要な意味をもつ。国際交流基金の地球市民賞では、今後も地域に根ざした国際文化交流を行う団体を表彰し、日本全国で多文化共生の輪を広げていく。