人手不足や組織マネジメントに悩むNPOに「トヨタ式」が広がりつつある。トヨタ自動車の本社がある名古屋で、NPOへトヨタ生産方式を伝える連続講座が昨年から開かれており、受講した団体は50弱に及ぶ。課題や対策、目標などをA3一枚にまとめるトヨタ式はNPOをどう変えるのか。(オルタナS編集長=池田 真隆)
同講座を開いているのは、トヨタ自動車が1974年に設立した財団法人である「トヨタ財団」。同財団では、社会課題や地域課題の解決につながる研究や活動について助成金を出していた。しかし、社会課題が複雑化していくなかで、支援のあり方も変えていく必要があると判断し、組織マネジメントを伝授する企画を考案した。
講座の名称は、トヨタNPOカレッジ「カイケツ」。昨年から始まり、今年で2期目となる。講師はトヨタ自動車で業務品質改善部に所属する、古谷健夫主査ら。参加者は5人ほどのグループに分かれ、それぞれに講師が一人付く。
トヨタ自動車の問題解決のステップに従い、解決したい対象を決める「テーマ選定」から始まり、「現状把握」、「目標設定」、「要因解析」、「対策立案」の5項目を教わる。
第2期は今年5月から始まり、8月3日に最終講座を迎えた。同日には、参加者は教わった5項目をA3一枚にまとめた。今後は、対策立案を実行し、11月28日の報告会で成果を発表する。
■「やりがい」のモノサシ見つけて
環境教育や堆肥づくりの普及・研究などを行うNPO法人循環生活研究所(福岡市)の永田由利子事務局長は、「職員と組織のあり方について話をすることができたので、普段抱えている悩みや不安などに気付くことができて、スッキリした」と手応えを話す。
永田氏は職員と話し、「やりがいと効率化の向上」を目指すことにした。こう決めた背景には、業務指示のマニュアルがないため、仕事のやり直しが起き、モチベーションが下がってしまうことがあった。
「仕事のやり直し」が発生する要因を解析するため、5回のなぜを繰り返すと、「口頭説明」や「確認不足」、「意図が十分に伝わっていない」などが出てきた。そこで、「業務指示チェックリスト」を作成した(図)。
この発表を受け、永田氏が所属するグループからは下記のフィードバックが出てきた。
・チェックリストは、「仕事内容」「背景と狙い」「アウトプットのイメージ」などの小項目をつくり、自由に記述できるようにした方がいい。依頼者の話を聞きながら、受け手がその項目にメモするようにすれば、依頼者はその内容を確認して、意図が伝わっているのか理解できるし、進捗確認にも使える。
・業務の効率化だけではなく、「やりがい」をどう生み出すのかが今後の課題ではないか。
同グループの講師を務めた、藤原慎太郎・トヨタ自動車業務品質改善部第1TQM室主査は、「やりがいは物理的に測定できるものではないため、感覚的に測らないといけない。職場の雰囲気がどう変わったか、会話する頻度が増えたかなどで、職員で話し合ってモノサシを見つけてほしい」と話した。
発達障がい児への支援などを行う特定非営利活動法人アジャスト(愛知県一宮市)では、「理事のまきこみ」をテーマに設定した。同団体の理事には、様々な立場の専門家がいるが、活動に巻き込むことができずにいた。
同団体の代表理事の清長豊氏は、「理事の所属や属性を調べて、巻き込めない要因を解析すると『情報発信不足』や『マニュアルがないこと』などが分かった。資料の作成段階で理事も巻き込んでいければなお良いと思った」と話した。
NPO法人ママの働き方応援隊(神戸市)の鈴木沙智絵氏は、赤ちゃんを通じて命の大切さを伝える「赤ちゃん先生プロジェクト」に取り組んでいる。同団体は書類の不備が多いことで、整理するのに手間が余計にかかってしまうという課題を抱えていた。
対策として、作業手順書の作成や定期的な会議を開き、9月末までに書類不備ゼロを目指す。鈴木氏は「カイケツで学んだ手法を生かして問題解決に取り組みたい。改善できれば自信にもつながる」と意気込んだ。
参加者はこれから対策立案を実行していく。講師の古谷氏は、「仮説を検証して、継続的に実行できるのか調べることが大切。単発で終わるのではなく、標準化できるか検証してほしい。一つでいいので変わったことを生み出してほしい」とエールを送った。報告会は11月28日、トヨタ産業技術記念館で開かれる。一般参加も受け付けている。
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