15歳のマララが銃弾に倒れて入院していた病院に私はかけつけた。集中治療室にいたマララとやっと面会ができたとき、彼女に私は聞いた。『世界中があなたのために祈っている.みんながあなたのために、何かできることがないかと考えている。彼らに何か伝えたいことはないかしら?』そのとき、マララは私に言ったの。『I’mFine(私はもう大丈夫)、でも、みなさん、教育機会のない女性のために、何かできることをしてください。そう伝えてほしい』その言葉を聞いた時、私の中で何かが変わった」。(鵜尾 雅隆=日本ファンドレイジング協会代表理事)
 

日本ファンドレイジング協会の鵜尾代表

アフガニスタンでタリバンの凶弾に倒れ、その後ノーベル平和賞をとったマララ・ユザイフとともに、世界の困難な環境にある女性への教育機会の提供などに取り組むマララ財団を立ち上げ、CEO(当時)に就任したシザ・シャヒッド。彼女は、Forbesが選ぶ「30才以下の30人」にも選出されている米国在住のパキスタン人の女性であるが、彼女はマララ財団の創設時に若干23歳であった。
 
今年の5月、米・サンフランシスコで開催された国際ファンドレイジング・カンファレンスに基調講演者として登壇し、全世界33カ国から集った4千人のファンドレイザーの前で冒頭のように語った内容は、この場にかつて立ったクリントン元大統領や、ノーベル平和賞受賞者のツツ大司教をも超えた、過去最高といってもよい感動的なものであった。
 
ここで大切なことは、彼女は、マララ財団の共同創設者であっても、マララではない、ということである。その彼女が、ここまで評価されるのは何故なのか。

■「共感性」と「組織化」を融合せよ

ひとつのエピソードがある。生涯をインドの貧困者のために捧げた女性であるマザーテレサ。名を知らない人はいないと思うが、彼女には賛同する数千人のスタッフが全世界にいて、彼女への社会の共感をテコに、ファンドレイジングを行い、世界中で数千の孤児院の運営につなげていったということはあまり知られていないだろう。
 
彼女の活動は共感を誘発した。しかし、それだけであれば実際に救われる人の数としてのインパクトは決して大きくないかもしれない。しかし、マザーテレサと彼女の組織の凄いところは、そこでとどまらず世界的事業にもっていったということである。
 
時に社会問題の解決には、シンボリックな存在が生まれる。誰もがその立場や行動に「共感」できる存在である。しかし、いくらその人がメディアで取り上げられて、世界から称賛されたとしても、実際に社会問題を解決するためには、具体的な事業や組織があり、資金が必要なのである。このリアリズムの中に世界の社会問題の解決があるのだと思う。「シンボリックな美談」だけにとどまっていては、社会変革は生まれない。
 
民間セクターの社会変革は、「共感性」という右脳的感覚と、「組織化・資金調達」という左脳的感覚の融合化にこそ本質がある。この右脳から左脳へのつなぎをマネジメントできる人材が今時代的に必要とされている。それが、シャヒッドが国際的に評価される所以でもある。誰もがマザーテレサやマララのような象徴になれるわけではない。しかし、シャヒッドにはなれる可能性がある。

*雑誌「オルタナ」49号「社会イノベーションとお金の新しい関係」(2017年6月末)から転載
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鵜尾雅隆(うお・まさたか)
日本ファンドレイジング協会代表理事。国際協力機構、米国Community Sharesを経て、ファンドレイジング戦略コンサルティング会社ファンドレックス創業。日本ファンドレイジング協会の創設に携わる。米国ケースウエスタンリザーブ大学非営利組織経営管理学修士、インディアナ大学The Fundraising School修了。著書に『ファンドレイジングが社会を変える』など。

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