競馬で活躍した馬たちが引退後どこへ行くのか、皆さんは知っていますか?競走馬となるべく、毎年7,000頭生まれるというサラブレットたち。その一方で事故やケガにより、年齢に関係なく引退を余儀なくされる馬は年間5,000頭にも上り、その多くが暗黙の了解の中、殺処分されているという事実があるといいます。引退後の馬のリトレーニングを通じて、元競走馬の「第二の人生」を応援するNPOを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■競馬界での居場所を失った元競走馬の行き先とは

現役時代は、とにかく「速く走る」ためにトレーニングを受けるサラブレットたち。写真はJRA調教師の角居勝彦氏が育て上げた名馬「エアソミュール」。獲得賞金は3億円を超える。左前種子骨靭帯の炎症により引退を余儀なくされ、吉備高原サラブリトレーニングへ。現在は持ち前の気の強さを生かし、障害飛越競技馬の道を進んでいる

競馬の世界を勝ち抜くために、足の速い親馬同士をかけ合わせた「サラブレット」として生まれ、その後もひたすら速く走るためにトレーニングを受けるという競走馬たち。その価値は「レースの勝敗」で決まります。つまりレースで良い成績を残せなくなった馬たちは、競馬界を去ることを余儀なくされてしまうのです。

「年齢的な理由だけでなく、予期せぬ事故やケガをきっかけに成績を残せなくなり、引退する馬も多い。馬は25年から長くて30年生きるが、中にはまだ子どもの3歳や4歳で引退する馬もいる。毎年5000頭もの競走馬が引退し、全国の乗馬クラブへと渡っていくが、そのうちの多くの命が人知れず失われている」。

そう話すのは、NPO法人吉備高原サラブリトレーニング(岡山)理事長の西崎純郎(にしざき・すみお)さん(34)。

吉備高原サラブリトレーニング理事長の西崎純郎さん。「自分も馬に出会って人生が変わった。馬には、人を変える力がある」と話す

引退後も元競走馬たちは「競走馬」として、とにかく速く走るためだけに教え抜かれた習慣が抜けず、乗馬クラブへ渡った後、「乗用馬」としても居場所を見つけられないのだといいます。

しかし馬は体が大きく、食費などの維持費はかさんでしまうため、乗馬クラブからも「必要ない」とみなされ、殺処分されて馬肉として売りさばかれるということが、実は起きているのだといいます。また、こういった事情により、引退の馬が「行き先不明」であることも、業界では暗黙の了解となっていると西崎さんは指摘します。

■「競走馬」になることだけが、彼らの人生か

競馬の世界はとにかく速く走ることが命。生まれてくるサラブレットたちは皆、足の速い遺伝子を持った馬たちです。

「ただ、親馬が足が速いからといって子どもも足が速いかといえば、必ずしもそうではない。それぞれに性格や適正、能力の違いもある。
競走馬としては現役中にスポットライトを浴びることがなかった馬でも、必ず何かしら光を浴びる秘めた能力を持っている」と西崎さん。

吉備高原サラブリトレーニングでリトレーニングを受けた「メイショウコロンボ号(通称コロちゃん)」。左前種子骨靭帯炎を発症し現役を引退後、吉備高原サラブリトレーニングへ。リトレーニングを受ける中で愛らしい本来の魅力が開花し、現在は広島県の乗馬クラブにてセカンドキャリアを歩み始めている

「競走馬として生まれてきたとしても、たとえ競走馬ではなくなったからといって、その存在や命自体が否定されるのは、間違っている。競走馬ではなかっただけで、別の素晴らしい能力がある」。引退馬の可能性について、そう語ります。

■リトレーニングを通じ、馬に「第二の人生」を

吉備高原サラブリトレーニングは、著名な調教師である角居勝彦(すみい・かつひこ)氏が発起人となって始動した引退馬のセカンドキャリアを支援する「サンクスホースプロジェクト」のプロジェクトパートナーとして、岡山・吉備中央町にある乗馬クラブにて引退した競走馬を受け入れ、リトレーニングを行っています。2016年には33頭の引退馬のリトレーニングを行い、「第二の人生」のスタートを見守りました。

馬は賢く「この人は僕の世話をしてくれる人なんだ!」と、相手を見てわかるのだという。相手を信頼すると、目や舌がリラックスした状態に

引退後、乗用馬やセラピー馬、障害馬としてセカンドキャリアを積み、その命を脅かされることなく全うできる馬たちを一頭でも増やしたい、という思いで活動を続けてきた西崎さん。

「馬は30年ほど生きる。若くして引退しても、残りの人生を誰かの役に立ち、愛されながら、充実した人生を送ってほしい。競走馬の役目を終えた馬たちにも『当たり前の未来』を与えたい」と、活動への思いを語ります。

馬はホースセラピーとして人間の癒しにも役立つと注目されている。馬に触れると、皆自然と笑みがこぼれる

■難関を乗り越え「社会で活躍する馬」を

そうは言っても、生まれてからずっと競走馬として訓練を受けてきた引退馬たちを、人間の生活とより近い場所で活躍できるようリトレーニングするには、かなりの難関が待ち受けているといいます。

リトレーニングの一コマ。こちらは調馬索(ちょうばさく)運動。人間が調馬索リンクの中央に立ち、歩かせたり走らせたりしながら、調教スタッフの指示を聞けるように訓練を行う

「とにかく『速く走れ』と教え込まれてきた馬たちは、人間と一緒にのんびりゆっくり歩く散歩ですら受け入れられない。以前は何の障害物もない場所で走っていたから、横木(横に渡した木)や地面に倒れている木さえも怖い。最初は荒ぶったり走り出してしまったりするが、それぞれの馬の気質や体調に合わせたプログラムを組み、約半年をかけてトレーニングを行っている」と西崎さん。引退馬をリトレーニングする中で、改めて「馬の可能性」を感じるといいます。

「馬には、不思議と触れた人を元気にする力がある。馬が社会で活躍できる場所を増やしていくのはもちろん、引退馬をリトレーニングすること、つまり『馬づくり』を通じて『人づくり』に貢献できるような馬を世に送り出していきたい」と夢を語ります。

■馬のリトレーニングを応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、吉備高原サラブリトレーニングと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

集まったチャリティーは、吉備高原サラブリトレーニングに在籍する馬たちが健やかに、元気にリトレーニングを受けられるよう、彼らのヒヅメを守る「装蹄(そうてい…ヒヅメに合った新しい蹄鉄を付けること)」のための資金になります。

「JAMMIN×吉備高原サラブリトレーニング」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色。他にVネックTシャツや7分袖Tシャツ(レディースのみ)・パーカーなどあり)

JAMMINがデザインしたTシャツには、“With every rising of the sun, think of your life as just begun”、「毎日陽が昇るたび、あなたの人生は新しく始まる」というメッセージが書かれています。「引退馬が再び立ち上がる日が来るように」と願いを込めてリトレーニングを行う吉備高原サラブリトレーニングの思いを表現しました。

Tシャツ1枚につき700円が、吉備高原サラブリトレーニングへチャリティーされます。販売期間は、10月9日〜10月15日までの1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、吉備高原サラブリトレーニングの活動について、そして競馬好きの方なら知っている「あの名馬」の引退後について、写真と共に詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「引退馬はどこへ行く?」。引退後の競走馬をリトレーニングして命を救い、「第二の人生」を花開く〜吉備高原サラブリトレーニング

山本 めぐみ(JAMMIN):
京都発チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」専属ライター。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。

【JAMMIN】
ホームページはこちら 
facebookはこちら 
twitterはこちら 
Instagramはこちら



オルタナ50号ではミレニアル世代を特集

第一特集は「ミレニアル世代を動かす6つの法則」

オルタナ50号(9月29日販売)では、「ミレニアル世代」を特集しました。ほかの世代と比べて価値観が異なるこの世代を企業はどう見るべきなのか。6つの法則にまとめました。詳しくはこちら

[showwhatsnew]

お知らせ オルタナSでは、社会問題の解決につながる活動を行う若者を応援しています。自薦・他薦は問いませんので、おすすめの若者がいましたらご連絡お待ちしております。記事化(オルタナS/ヤフーニュースほか)に加えて、ご相談の上、可能な範囲で活動の支援をさせていただきます。お問い合わせはこちらから