明治学院大学白金キャンパスで、「しあわせの経済世界フォーラム」(主催「しあわせの経済」世界フォーラム2017実行委員会)と題されたイベントが開かれた。本イベントでは、さまざまな社会問題に関する国際的な議論やアクションを紹介し、地域共助ビジネスや地域通貨など日本各地で起こるローカル経済のモデルを世界に発信するために開催された。会場内では、ローカリゼーション運動のオピニオンリーダーら32人のスピーカーによる14のセッションが行われ、オーガニックやフェアトレード商品を紹介する30の団体が出展した。(松尾 沙織)
分科会では、350 Japanが企画した「ローカル×エシカル×地球に優しい金融とは?」をテーマにしたトークセッションが行われ、およそ100人の参加者が集まった。
ゲストには、末吉里花氏(エシカル協会代表理事)、吉原 毅氏(城南信用金庫顧問)、新井和宏氏(鎌倉投信ファンドマネージャー)、ジョージ・ファーガソン氏(建築家、元ブリストル市長)が登壇し、350 Japan代表の古野真氏が司会を務めた。
日本や世界においても、環境問題や格差問題が深刻化し、さまざまな局面で資本主義とグローバルマネーの限界を感じざるをえない状況になってきた。
これらの解決策として世界で注目されているのが、ローカリゼーション、エシカル消費、社会的責任投資だ。より持続可能な社会の実現に向けて、これまでの日本の発展を支えてきた金融機関の役割は、今後どのようなものになっていくのか。
そして一般消費者として、どのような選択をすれば良いのか。それぞれの専門家たちが意見を述べた。
■グローバル経済の問題点とは?
城南信用金庫顧問の吉原氏は、グローバル経済の悪影響として、お金によって人々が「自分さえよければ」「今さえよければ」という、視野狭窄であり近視眼的になってしまったことをあげた。
「明治以降の日本では、英国や米国の影響から、損得勘定であるマネーマーケットやグローバルマネーが正しいと思い込んできました。テレビやコマーシャルがそれをうたうことで、今の日本にもある全体性がつくり出されたのです。ただ、そういう人たちが悪いのではなく、社会がそういう状況をほったらかしにすることがいけないのだと思います」。
そういった状況をつくらないために、昔ながらの穏やかな生活を守っていくことや、イベントのテーマとなった「ローカリゼーション」が大切だと吉原氏は訴えた。お金中心の経済では、大量生産・大量消費が推し進められ、ものの価値が見えづらくなってしまうとした。
■他者を思う、ものを大切にする。そういった心ある経済にするには
こういったお金優先の社会から脱却するには、物々交換があった時代に価値観を戻す必要があるとファーガソン氏は話した。
ファーガソン氏が市長を務めていた英国にあるブリストル市では、薄利多売ではなく、ものの価値と適正な価格が生み出せるような小さな経済圏をつくるため、2012年から地域独自の通貨「ブリスタル・ポンド」を発行した。これは、チェーン店などの大型店や市外では使えない地域通過。地元のお店や企業、交通だけで使うことができる。登録した中小企業は1,000社に及ぶ。
ファーガソン氏は、市長を務めていた当時、地域通貨で自治体職員の給料を一部受けていた。通貨の使用先を地元企業に限定したことで、市外への紙幣流通を防いだ。地元企業への流通を増加させることで、市内経済を活性化させることを目指した。
地域通貨を使用することで、消費者側の立場でお金の流れを見ること、自分たちが何にお金を使うかを考えること、この二つを促すことができるという。それによって、自分のお金から社会がつくられているという自覚を生み出すことが大事だとファーガソン氏は語った。
こういった背景や本来ものが持つ価値を知ったうえで購入するといった、社会や環境に配慮した消費行動をとることを広めているのが「エシカル協会」だ。代表理事の末吉氏は、人とものづくりの間に大きな壁があり、ものづくりの背景が見えないことがさまざまな問題を引き起こし、知らない間に問題の加担者になってしまっていることがあると話す。
「環境破壊や大気汚染、気候変動、人権侵害、児童労働、貧困問題。たくさんの問題が起きているにもかかわらず、私たちが裏側を見ようとしなければ、問題を知ることさえできません。問題は知られた時に初めて問題になります。だからこそ、私たちはもっと問題を知る必要があります」
エシカル消費は、地球環境、地域社会に配慮したものを買うことを指す。フェアトレード、オーガニック、地産地消、応援消費などもこれに含まれる。同協会では、お金を使って何かを買うだけではなく、社会や環境に配慮した銀行口座を選ぶ「エシカル金融」についても扱う。同協会は、今回のイベントに合わせ、350 Japanが紹介する「地球にやさしい銀行」で口座を開設し、「ダイベストメント」を実行した。
個人投資の観点では、消費行動同様どういう社会にしたいかということにお金を投じることが真の投資であると鎌倉投信ファンドマネージャーの新井氏は話す。「投資は投機と違い、投じて資すると書きます。自分ではなく相手に資するということを考えること。自分のお金を社会のために役立たせることで意味が出てきます」。
信用金庫の立場では、地域で起業する人々を応援し、地元の困り事を手伝うことが金融機関の社会的な役割だと吉原氏は話す。ブリストル市でも、地域通貨の実現をサポートし、小さなローカル経済をつくる起業家を支援したのは、地元の信用金庫だ。
■自然エネルギーへの転換こそがローカリゼーションのカギ
そして、ローカリゼーションで重要となってくるのが自然エネルギーへの転換だ。エシカル消費にはもちろん自然エネルギーも含まれる。日本が自然エネルギーに舵を切れば、経済が大きく発展すると吉原氏は話す。
日本は他国から年間およそ25兆円分の燃料を輸入しており、輸送にかかるエネルギーコストも含めると莫大な金額が流出している。エネルギーの民主化が起きれば、この25兆円を日本国内で流通させることができ、それによって国や地域の経済も活性化させることができる。
特に農地に太陽光パネルを置く「ソーラーシェアリング」は、農業だけでなく自然エネルギーによる収入も入り、農家の年収が10〜20倍にまで増える。それによって「農業=生活が成り立ちづらい」というイメージも変わり、移住者も増えて地方が発展する。ドイツもデンマークもそういったかたちで経済が回ってきたと吉原氏は説明した。
海外では、太陽光発電コストが1kw10円以下に推移し、原発や化石燃料の発電コストを下回るまでになってきた。環境配慮やコストの面から、海外の原発設備容量が400GWであるのに対し、自然エネルギー設備容量は800GWと倍をいくまでに至っている。
エネルギーの自給によって世界は燃料を中東に依存しなくなり、資源の奪い合いをしなくなる。そうすれば、戦争がない世界になるかもしれない。人々の主な不安の種である食料とエネルギーが自給できることが、世界平和実現へと繋がると吉原氏は熱く語った。
■しあわせな経済にはコミュニティの力が必要
こういったプロジェクトは、ブリストル市でも進んでいる。ブリストル市では、同じ目的意識をもった市内の800団体が参加する「グリーンキャピタルパートナーシップ」が結成され、持続可能な都市を目指し協働し活動している。ここには、NGO、大学、協同組合、経済団体、銀行、さまざまなセクターが参画し、今後金融機関と協力して市内に自然エネルギーの導入を目指しているそうだ。
日本においても、ブリストル市のようにコミュニティーの力を強くしていくことが求められていると新井氏は話す。「自分たちで治めないことには、国策の中でしか選択ができないわけです。本当の自治とは何かを考えないといけない時代にきています」
今後の経済や持続可能な社会において、こういった地域連携がとても重要なポイントとなってくる。昨今、注目が高まりつつある持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」でも、項目の17番目には「パートナーシップで目標を達成しよう」と掲げられている。
ここでも使われている「開発」という言葉は、仏教用語「かいほつ」が元となっていると末吉氏は話す。「かいほつ」の本来の意味である、「心や内面を耕し成長させ」、人類や地球環境を守るために一人ひとりが責任を持って日々行動することが、ローカリゼーションを実現するためには、とても大切なことだと語り、イベントの最後を締めくくった。
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▼350 Japanについて
350 Japanが展開する「レッツ、ダイベスト!」キャンペーンは、一人でもできる身近な気候変動対策の活動として「ダイベストメント」を提案している。これは気候変動問題を加速させる化石燃料やリスクの高い原発にお金を流す銀行から預金を引き揚げ(ダイベスト)、「地球にやさしい銀行」へと口座を乗り換えることです。地球環境に配慮した銀行業務を求める消費者を増やし、大手銀行に気候変動に配慮した行動を求めています。
11月6日からキャンペーンを開始、「パリ協定」が採択されてから2周年記念の12月12日を最終日と位置づけ、100人と5団体のダイベストメントを目指す。都内近郊にある、複数の場所でイベントを開催するとともに、実際にダイベストメントをした人のパーソナルストーリーを発信している。
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