小さい頃から映画が好きで「映画を通じて誰かを幸せにしたい」と映画監督になることを夢見ていた一人の少女。大人になり夢を忘れかけていた頃、人生の岐路に立たされた彼女は、ふと思い立ちます。「私はやっぱり、映画が好き。途上国の子どもたちに映画を届けたい」。2012年に団体を立ち上げ、これまでに4万人を超える子どもたちに映画を届けてきたNPO「World theater Project」代表の教来石(きょうらいせき)小織さん。映画に託す思いを聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■大好きな映画を、途上国の子どもたちへ

映画に熱中する子どもたち(撮影:川畑嘉文)

NPO法人World Theater Project(ワールドシアタープロジェクト・東京、以下「WTP」)の代表を務める教来石さん(36)。幼い頃から映画が身近にある家庭で育ち、映画を観ては登場人物になりきり、様々な夢を膨らませる子どもだったといいます。

映画の世界に魅了され、やがて映画監督を目指しますが、大学卒業後はその道を諦め、派遣社員として働いていた教来石さん。つらい出来事が重なり、失意のどん底で人生の指針を見失いかけていた時、ふいに湧き出た「カンボジアに映画館を作りたい」という思いが、活動のきっかけでした。

NPO法人World Theater Project代表の教来石さん。好きな映画は『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年、ジュゼッペ・トルナトーレ監督)

途上国で活動にするにあたり、なぜ学校でも、図書館でもなく映画だったのか。その理由について、次のように語ります。

「自分の人生で、一生情熱を燃やし続けられると確信できるものが映画しかなかった。私自身が映画からたくさんの夢をもらってきた。映画が与える影響は大きい」

■カンボジア各地で映画を上映

映画の1シーンに、笑顔になる子どもたち。映画には、様々な感情を呼び起こす力がある(撮影:五百蔵直樹)

WTPでは、上映許諾を得て現地の言葉に吹き替えられた作品を、移動映画館というかたちで、カンボジアでこれまで400箇所・4万人を超える子どもたちに届けてきました。

「カンボジアは、1970年代半ばからの内戦でそれまで栄えていた映画産業が滅びてしまった国。映画に限らず、あらゆる文化が一度なくなった悲しい歴史がある。現在も農村部には映画館がなく、映画自体知らない子もいる。そんな子どもたちに、映画を通じて“夢”を与えたい」。教来石さんはそう語ります。

移動映画館にやって来た親子。「一体、どんな物語が始まるのかな?」。ワクワクドキドキしながらスタートを待つ気持ちは万国共通

映画の上映にあたり、映画館の設営から片付けまでを行うのは、現地の「映画配達人」。普段はトゥクトゥク(三輪タクシー)の運転手をしている現地の人たちが、副業として担っています。発電機やプロジェクター、スクリーン、スピーカーなど必要な上映機材をトゥクトゥクに乗せて農村部の学校や広場へ赴き、即席の映画館を作ります。

■自分に夢をくれた映画を通じ、子どもたちにも夢を

映画の世界に引き込まれるのは、何も子どもたちだけではない。真剣な表情で映画に観入る大人

カンボジアの農村部の暮らす子どもたちに「将来何になりたい?」と聞くと、「医者」や「先生」と答える子がほとんどなのだといいます。

「それは、もしかしたら他の職業を知らないからかもしれない。知らない夢は、思い描くことはできない」と教来石さん。

「もし、この村に映画館があったら、子どもたちはどんな夢を描くのだろう?」。そんな思いが、活動のモチベーションになっている」と話します。

カンボジア人のプロの声優たちが、クメール語で声を吹き込む

「映画は世界へ通じる窓。新しい世界を見せてくれる映画で、もしかしたら新しい夢を思い描く子どもがいるかもしれない。頑張る主人公の姿から、人生を切り拓く力を学ぶ子がいるかもしれない。より良い人生のための原動力を得る子がいるかもしれない。映画は、ワクチンや食糧のように生きる上で必要不可欠なものではないかもしれない。けれども、夢や希望、生きる目的を与えてくれるものだと思う」

■自分らしく生きるヒント、映画の中に

映画、そして途上国の子どもたちへ、深い愛を持って活動を続ける教来石さん。彼女にとって、映画とは何かを尋ねてみました。

「映画は人生で大切なことを教えてくれる先生。これまで得た中で一番大きな学びは『自分の人生の主人公は、自分なのだ』ということ。『途上国の子どもたちに映画を届けたい』という今の夢を思い描き、そこへ向けて動き出してから、仲間や活動をサポートしてくれる方たちにも恵まれ、支えられ、本当の人生を生きている気がする。夢が自分をここまで連れてきてくれたし、その夢を与えてくれたのは、映画だった。つらいことや大変なことがあっても、地に根を張って、自分らしく生き、花を咲かせてほしい。そのためのヒントが、きっと映画にはたくさん隠れている」

活動を広げるにあたり、映画の権利問題や言葉の問題、資金問題などの壁にぶつかっていたというWTP。俳優の斎藤工(さいとう・たくみ)さんから提案を受け、世界中の子どもたちに届けられる言葉のないクレイアニメ『映画の妖精 フィルとムー』(2017年、秦俊子監督)を制作した

■途上国の子どもたちに映画を届ける活動を応援できるチャリティーキャンペーン

映画を観たり楽しんだりすると発展途上国の子どもたちにも映画が届く仕組みをつくるため、国内では映画に関する様々なイベントを開催している

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、WTPと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。集まったチャリティーは、途上国の子どもたちに映画を届けるための資金となります。

移動映画館にかかる経費などを計算すると、子どもたちに映画を届けるために必要な資金は、一人あたりおよそ100円。Tシャツ1枚につき700円がチャリティーされるので、1枚の購入で7人の子どもたちに映画を届けることができます。

「JAMMIN×WTP」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色。他にスウェットやパーカーなどあり)

JAMMINがデザインしたアイテムには、映写機から映し出される途上国の町並みが描かれています。「子どもたちが暮らす小さな町から、映画をきっかけに新たなストーリーが始まる」というWTPの活動を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、11月27日〜12月3日までの1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、WTPの活動のほか、教来石さんの映画への思い、活動に至った経緯について、より詳しいインタビューを掲載中。映画好きの方、必見です!あわせてチェックしてみてくださいね。

発展途上国の子どもたちへ。「生きる目的」を届ける移動映画館〜NPO法人World Theater Project

山本 めぐみ(JAMMIN):
京都発チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」専属ライター。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。

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