350 JapanとMamademo(ママデモ)は11月18日、映画日本と再生」の上映会を行った。上映後には、同映画の監督を務めた弁護士の河合弘之氏と350 Japanスタッフによるトークセッションが行われた。「脱原発」を目指すためにダイベストメントやパワーシフトの重要性について語り合った。(松尾 沙織)

映画「日本と再生」

河合氏は、福島第一原発事故以降、全国各地での原発差し止め訴訟や、被ばく被害者の側に立った訴訟を弁護し続けている。 しかし、国との癒着関係にある電力会社の訴訟を勝ち取ることや、国民の無関心から、問題解決の難しさを実感しているという。

もっと多くの人に原発問題を深く理解してほしいとの思いから、自ら監督を務め「日本と原発 私たちは原発で幸せですか?」「日本と原発 4年後」「日本と再生」ーー三作の映画を制作するに至った。

現在では、「日本と原発 4年後」は1,800回以上自主上映され、約11万人が鑑賞した。新作の「日本と再生」もすでに全国で600回以上の上映会が行われた。

当日の会場には30人弱が集まった

今回上映された「日本と再生」は、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長 飯田哲也氏とともに、世界の自然エネルギーの先端事例や、日本の各地域で起こっている市民電力のムーブメントについて紹介している。

自然エネルギーにまつわる疑問について、実際に関係者に確かめにいくシーンや、自然エネルギーや業界の仕組みを解説するシーンなど、誰でもわかりやすいようコミカルに描かれている。

映画を鑑賞したあとは、河合氏によるトークが行われた。映画を制作する中で、世界中で脱温暖化・脱CO2の手段として自然エネルギーが大きな潮流になっていることを実感したと言う。その流れを加速させているのは、建設コストや発電コストの低下が主な理由だと話す。

「自然エネルギーが出始めの頃に比べ、今では発電コストが5分の1になった。ものすごいコストダウンですよね。これはまだまだ続いています。世界で大きな流れができているなか、日本も必ず流れに合流せざるを得なくなるでしょう。世界のほとんどの国が、原料費タダで電気をつくり、国、社会を回していく。その一方で日本は乗り遅れていると言っても過言ではない」

登壇した河合氏

日本は、未だエネルギー源となる石炭やウラニウムを外国から多く輸入してしまっている。その額は年間にして約25兆円。これは日本の一般税収の50兆円の半分にあたる。世界が低コストでエネルギー自給を実現していくなか、日本は余計なエネルギー材料費を消費し、自然エネルギーの技術発展を遅らさせるばかりか、自然環境も汚染していると河合氏は指摘する。

「化石燃料輸入代金がかさみ、そのお金は出ていくばかりで循環していない。そんなことをしていたら、日本の経済が沈没してしまうかもしれないのは、どんな政治家だってわかるはず。原発村の利権構造と政策が障害になっています」

日本の技術力の高さがあれば、すぐに世界に追いつけると河合氏は述べた。日本はアイスランドに次ぐ地熱大国だ。地熱発電が発展すれば、日本もエネルギー自給率が格段に上ると訴えた。

次は350 Japan代表の古野真氏がプレゼンを行った。

350Japan代表の古野氏

同団体の名称は、二酸化炭素濃度からきている。元NASA宇宙研究所の所長James Hansen氏によると、安心して暮らせる濃度にするためには、350ppm以下に低減する必要がある。

しかし、2016年には、403.3ppmを超えてしまい、産業革命前に比べ世界の平均気温が1.1度上昇した。ドイツ保険会社が出したデータによると、この1℃上昇によって異常気象による自然災害が過去35年間で3倍に増加したという。

2015年に温暖化防止に向けて、世界の国々が歴史的な条約「パリ協定」を定めた。パリ協定の目標は、世界の平均気温の上昇を1.5ー2度に抑えること。しかし世界、そして日本の温暖化対策は、それを実現するのにまだまだ対策が足りていない状況だ。

特に日本の温暖化対策は近年停滞しており、国内外に最もCO2排出量が多い石炭火力発電所を増やす方針を立てている。これはパリ協定の「2度目標」達成と矛盾し、化石燃料に依存する企業へ投融資する金融機関の責任が問われるところだ。

こういったことの身近な解決策の一つが、350 Japanが広める「ダイベストメント」だ。「ダイベストメント」とは、「インベストメント(=投資)」の逆で「投資撤退」を意味する。これは、住み良い地球環境を守るために、化石燃料や原子力にお金を流す銀行から預金を引き揚げ、破壊的な事業に投融資していない「地球にやさしい銀行」ヘと乗り換えることを指す。

地球にやさしい銀行は?

団体では、これを広めるために、11月6日~12月12日の間「レッツ・ダイベスト!」キャンペーンを開催している。団体は、100人の個人と5団体・企業の銀行乗り換え(ダイベストメント)を目指しており12月7日にアクションしたい人を募り銀行に集まりその場で口座を閉鎖するアクションを行う。

キャンペーン公式ホームページ(www.letsdivest.jp) ではダイベストされた参加者人数を記録するトラッカーを導入しており、地球にやさしい銀行の選び方を分かりやすく紹介する資料を提供している。

350 Japanはレッツ、ダイベスト!」を通じて、地球にやさしい銀行を選ぶ消費者や団体を増やすことで、大手銀行各社に対し、パリ協定との整合性がある地球環境に配慮した投融資を行うことを求める。キャンペーン最終日であり、「パリ協定」採択から2年記念日でもある12月12日に合わせて、ダイベストメントをした人数と時価総額を日本で初めて発表する。

キャンペーンサイトのトップ画

世界では、すでに76カ国・800団体以上がダイベストメントしており、自然エネルギー同様、時代の潮流となっている。現在ダイベストメントされた金額は、およそ640兆円に上る。

こういった地道な市民運動から、発電所の建設計画を中止に導いた事例は数多くある。市民一人ひとりの行動から、社会変革は広まっていく。市民が世界や未来の世代のために立ち上がり、積極的に行動していくことが必要だと古野氏は語った。

古野氏のプレゼン後、河合氏と350 Japanスタッフによるトークセッションが行われた。

今回初めてダイベストメントを知ったという河合氏。それに対する印象について、次のように語った。

「お金は社会の血液。これがちゃんと循環するように、うまく回していくのが銀行の役目なのに、これを忘れて自分自身の利益を上げることに血道をあげているところもある。どこに使われていても関係ないと言わんばかりに。これは金融機関の公的責任の放棄ですよね。それを戻させるのが、ダイベストメントの運動。本当に良い考えだし、社会の構造のツボをついている大事な運動だと思いますね。僕も賛同します。原発問題でも日本の銀行は後ろに隠れているけど、一番影響力を持っているのは銀行です」

発電所建設プロジェクトを進行するにあたり、最終承認を出すのはほとんどの場合銀行だ。また、電力会社の株主でもあり、銀行は発電所建設において、とても大きな役割を担う。その銀行の元手となる資金は、利用者の預金やローンだ。

銀行の収益に大きく関わる一般預金者はパワーを持っていると古野氏は話す。

「日本のメガバンクの株主リストには、カルフォルニアやノルウェーの年金基金も含まれます。日本の年金基金の次に大きいノルウェー年金基金は、温暖化問題に向けて石炭から撤退し、ガスと石油から撤退するとの姿勢を見せている。銀行は今、日本の政策の後ろに隠れていますが、もう近いうちに逃げられないことになると思います」

トークセッションでダイベストメントの重要性を話す古野氏

欧米の政府や銀行は、日本は世界の流れに逆行しているとの認識を持っていると古野氏。ドイツのボンで行われていたCOP23でも、日本は、もっとも温暖化対策に対して後ろ向きな国に与えられる“化石賞”を受賞してしまった。その理由の一つは、国内でも石炭火力発電所計画を推し進めていることだ。

現在東京湾沿いでも4基の計画が進んでいる。千葉県蘇我、袖ヶ浦、神奈川県横須賀。建設予定地に見学に行った350 Japanスタッフの松尾氏は、住民の反対を押し切って建てようとする企業に疑問を持ったという。

「周知が追いついておらず、そこに危機感を持った方々による市民団体が立ち上がりました。すでに既存の発電所からスラグが飛散して、マンションの洗濯物や壁に付着し被害が出ています。予定地の近くには運動場や学校も多数あり、子どもたち、住民の方々の被害がとても心配です」

袖ヶ浦火力発電所建設予定地の地図

蘇我火力発電所建設予定地の地図

横須賀火力発電所建設予定地の地図

化石賞受賞のもう一つの理由は、インドネシア、ベトナム、フィリピン、ミャンマーなどの東南アジアに石炭火力の技術を輸出しようとしていることだ。国際開発銀行を通じて、国がプロジェクトを保証してしまっているといった実態もある。

現在、石炭火力発電所の建設計画が進むインドネシアでは、現地住民が反対運動を起こした。ここに住む多くの人は農業を営む。水も空気も土地も汚染してしまう石炭火力発電所建設は、彼らが生活できないような状況に追い込んでしまうのだ。

こういったことは、日本ではあまり報道されない。情報を得ようとしなければ、私たちの知らないところで発電所計画が進み、知らない間に他国の人々の生活を侵害することに加担することにもなる。もう私たち日本国民も「関係ない」とは言えない。なぜなら、私たちの預金によってプロジェクトは進んでいるのだから。

セッションのあとは、質疑応答が行われた。

最後に河合氏は、自然エネルギー社会に向けての意気込みを語った。

「例えば東海第二原発で事故が起きたら、東京も住めなくなる可能性がある。家宝は寝て待てって言う人もいるけど、それではダメ。絶対に自然エネルギー社会がくるという自信を持ちながら、原発を再稼動させないという運動をし、自然エネルギーも他人任せでなく自分たちで引き寄せる。自然エネルギーが強くなればなるほど、原発は衰退します。身近にできることをぜひやってください!」

化石燃料や原発へ投融資している銀行に預金しない「ダイベストメント」や自然エネルギーに切り換える「パワーシフト」など、できるところから始めることが、自然エネルギー社会を呼び寄せることになると河合氏は話した。

私たちは自分にできることを考え、一人ひとりが実際に行動に移すことが求められている。

 

「レッツ、ダイベスト!」HP : www.letsdivest.jp

11月6日から開始した350 Japanが展開する「レッツ、ダイベスト!」キャンペーンは、「パリ協定」が採択されてから2周年記念の12月12日を最終日と位置づけ、100人と5団体のダイベストメントを目指している。都内近郊にある、複数の場所でイベントを開催するとともに、実際にダイベストメントをした人のパーソナルストーリーを発信している。

12月12日まで開催しているレッツ、ダイベスト!〜未来のために銀行を選ぶ1ヶ月〜」に参加できる方法はこちら

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