2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、インクルージョンやダイバーシティなどを進めるうえで格好の機会だと言われている。東京パラリンピックでは、アーチェリーやウィルチェアーラグビー、5人制サッカーなど20種目以上が行われ、この大会を機に障がいへの理解促進が期待されるが、実際はどうだろうか。障がいがある当事者約500人にアンケートを実施したところ、8割以上が「理解促進は限定的」と悲観的な答えが出た。(オルタナS編集長=池田 真隆)
このアンケートを実施したのは、障がい者の就労支援などソーシャルビジネスを展開するゼネラルパートナーズ(東京・中央)の調査研究機関「障がい者総合研究所」。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで1000日を切ったことを受け、「東京オリンピック・パラリンピックが障がいへの理解促進につながるか」について質問をした。
■理解促進には悲観的な声が多数
アンケートの結果、8割以上が「障がいへの理解促進は限定的」だと答えている。内訳では「出場対象障がいへの理解は進むが、それ以外の障がいへの理解は進まないと思う」が49%、「すべての障がいへの理解が進まないと思う」が38%だった。
パラリンピックの競技の対象障がいは、「肢体不自由」「視覚障がい」「知的障がい」などで、「聴覚障がい」「内部障がい」「精神障がい」「発達障がい」などは対象外。このように、パラリンピックに出場できる障がいには制限があることから、出場対象障がい以外への理解促進にはつながらないと考える人が多いようだ。
フリーワードでは、「肢体の欠損や車椅子など目で見て分かる障がいしか競技が無い。そのため、その他の障がいへの理解は進まないと思う(女性/50代/肢体不自由)」や「精神障がい者・発達障がい者はパラリンピックについては『蚊帳の外』という認識しかないから(男性/40代/精神障がい)」などの回答があった。
また、「すべての障がいへの理解促進につながらない」と考える人たちからは、「一時的もしくはオリンピック・パラリンピック開催中のみは、障がいに対する理解やネット検索は増加すると思われます。ただ、パラリンピックが東京で開催されるからといって、障がいは身近なことではなくテレビの中の世界、自分とは関係ない世界、と思い続ける人が多いように思われます (男性/20代/内部障がい)」や「障がいのある人すべてがスポーツや生活に意欲的に取り組めるわけではないので、パラリンピックが理解促進のきっかけになるとは思えない(男性/40代/肢体不自由)」といった声が聞かれた。
一方で、「すべての障がいに対して理解が進む」と回答した人たちも13%いる。しかし、こうした人たちもパラリンピックを楽観的には見ているわけではないようだ。
「開催地が日本のため、パラリンピックがより注目され、応援の機会も増えると思います。2020年を機会にノーマライゼーションが少しでも浸透すると信じています(男性/40代以上/視覚障がい)」や「希望的観測からこの選択肢を選びました(男性/40代/精神障がい)」など、そうあってほしいという期待が込められた回答が多くなっている。
■「本質的な理解」を訴え
障がい者総合研究所 所長の中山伸大氏は、アンケート結果からこう分析している。「パラリンピックのような特別なイベントは日常とはかけ離れており、身近に障がい者との直接の接点が無いと理解は進みづらいという意見や、一時的な関心だけでは継続しないという声がありました。このような障がい者の声は、障がいへの表面的な理解ではなく、本質的な理解を求めているとも言えます」。
たしかに、東京オリンピック・パラリンピックのようなイベントだけで、障がいについて十分に理解することは難しいだろう。また、パラリンピックに出場できる障がいは限られていることや、その中でもトップアスリートという限られた層だけが出場していることを認識しておかないと、誤った理解を植え付けてしまう恐れもある。
一方で、東京オリンピック・パラリンピックを通じて、これまで以上に多くの人が障がいについて関心を持つきっかけになることは間違いないだろう。その関心を一時的なものではなく継続的なものにしていくために何ができるかを開催までの残された期間で考えていく必要があるのではないか。
◆ゼネラルパートナーズ社が実施した、「オリンピック・パラリンピックに関する調査」の結果はこちら