震災などの有事の際、障がいがある人はどのようなことに困るのか。実際に7年前の3月11日、東日本大震災で被災を経験した身体・発達障がい者4人に集まってもらい、当時のことを振り返ってもらった。そこから見えてきたのは、それぞれの障がいによって、困り事や支援してほしいことに違いがあるということ。震災が起きた時にどのように障がい者と関わればいいのか、当事者の声を元に考えてみよう。(オルタナS編集長=池田 真隆)
障がい者の就労支援などのソーシャルビジネスを展開するゼネラルパートナーズ(東京・中央)が行った「防災に関するアンケート調査」によれば、回答者の過半数が避難時や避難所での生活において「障がいによる支障がある」と答えた。
では、一体どのような支障があるのか。実際に東日本大震災で被災した経験を持つ当事者に当時のことを振り返ってもらった。
◆K.Wさん:趣味はスポーツ観戦。20歳前に筋ジストロフィー(ベッカー型)発症。37歳6か月で車イスの生活となる
――皆さんは東日本大震災で被災を経験されていますが、その当時のことを教えてもらえますか。
矢嶋:東日本大震災が起きたときは、都心の溜池山王にある職場で働いていました。オフィスビルにいたのですが、同僚の男性におんぶしてもらいながら階段を降り、都内にある自宅マンションまで送ってもらいました。ただ、マンションの6階が自宅なのですが、エレベーターが止まっていたため、再度おんぶしてもらい、自宅になんとかたどり着けました。
K.W:私も震災発生時は渋谷にある職場で働いていました。エレベーターが止まっていましたが、ビルの管理者に頼んで動かしてもらい、なんとか降りることはできました。
ですが、電車は止まっていたし、バスも人で溢れていて乗せてもらえないと判断し、家までの約10キロの道のりを電動車イスで帰りました。電動車イスのバッテリーが切れたら、そこでおしまいだったので、かなり不安でした。夜の9時ごろに自宅近くに戻ることができたのですが、自宅マンションのエレベーターが止まっていたため、自宅に戻ることは諦めて、近くの体育館に避難して一晩を過ごしました。
長谷:私は九段下にあるオフィスビルで働いていたのですが、会社から帰宅命令が出て早めに帰ることになりました。けれど、すでに電車は止まっていて、歩いて帰り始めました。日が落ちても歩き続けましたが、自宅までは遠く、一人だと不安なので、途中で杉並にある中学校の体育館に避難して、その日を過ごしました。
Y.M:ちょうど3月11日は、兄が住む岩手県の陸前高田市に着いた日でした。ぼくは兄とともに高台に逃げたのですが、津波により、兄のアパートは全壊。兄と一緒にいたことで本当に救われたと思います。3日ほどはライフラインが停止した状態で車の中や民宿で過ごし、4日目に東京へ帰るバスに乗って自宅へ戻れました。
――避難時にはどのようなことで困りましたか。
Y.M:当時はADHDと診断される前でしたが、あいまいな指示をもらうとどう動けばいいのか分からなくなってしまう特性が当時からありました。「高台に逃げて下さい」という警報が流れましたが、具体的にどれくらいの高さなのか分かりません。兄と一緒にいたのでよかったですが、もし一人だったら、どうなっていたことか。
長谷:私は、情報過多になってしまい、どの情報を信じていいのか分からず困りました。あと、私は独り言が多いので、その独特な言動や行動を見ていて、不快に感じてしまう人はいると思います。なので、プライバシー空間がない避難所は正直利用をためらいます。つい声が大きくなってしまうので、それがきっかけでトラブルに発展してしまうことがとても不安です。
K.W:私が感じたのは、電車やバスなどの公共交通機関が人であふれかえり、車イスユーザへの対応が難しくなってしまうということです。有事だから仕方がないかもしれませんが、車イスだと公共交通機関に乗ることを諦めざるを得ませんでした。
矢嶋:私は乳製品アレルギーがあるため、食品や水などは十分に備蓄していたので、特に飲食などに関しては問題がありませんでした。だた、先ほどお話したように、エレベーターが止まってしまい、いつ動くのか分からないことに不安を感じていました。
――お話をうかがっていると、避難時や避難所での生活において、それぞれに困られた場面や不安があったのだと感じました。こうした有事の際の困り事や支援の方法について、周囲に知ってもらうことも必要なのでしょうね。
長谷:そうですね。私は、困り事を抱えている障がい当事者同士だからこそ、助け合えることも多いと思っています。なので、もし震災時に、車イスで移動できずに困っている人がいたら、すぐに飛んでいってでも何かしたいです。
K.W:震災などの非常時には、人は、どうしても自分のことで精一杯になり、こころの余裕がなくなってしまいます。そうした中で、どうしたら障がいある人が、後回しにならずに対応していくことが出来るかを考えていく必要があるのではないかと思っています。
Y.M:もちろん、こちらも100%の配慮は求めていません。障がい者に対して、どう接したらいいのか分からないという人も少なくないと思います。特別なことではなく、ただ少し話しを聞いてくれるだけでも、ありがたいです。
矢嶋:そうですね。もしも次に大きな震災が来たとして、私たち自身が防災対策を事前に取っておくことも必要だと思いますが、私たちのような困り事を抱えている人が、少しでもいることを知ってもらえたらと思います。「何かできることはありませんか?」この一言だけで、救われるような気がします。
■ゼネラルパートナーズ社が行った障がい者への防災に関する意識調査の結果はこちら