伊藤忠商事はこのほど、新中期経営計画「Brand-new Deal 2020」の発表に合わせて、ESG(環境・社会・ガバナンス)視点を取り入れた「サステナビリティ上の重要課題」(マテリアリティ)を特定した。SDGs(持続可能な開発目標)やパリ協定などに代表される社会状況や事業変化を踏まえた改定を行うことで、社会と共に持続的な成長を目指す。同社の田部義仁サステナビリティ推進室長に今回の改訂の経緯と今後の戦略を聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
同社では2013年に環境・社会を中心として5つの重要課題を特定していた。しかし、2015年以降、SDGsやパリ協定、ESG投資の拡大など、「ESGが経営に直結するようになった」(田部氏)こと、AIやIoTによる産業のデジタル化などの事業変化を踏まえて、このほど新たに下記の7つの重要課題を特定した。
・「技術革新による商いの次世代化」(SDGs目標9に対応)
・「気候変動への取組(低炭素社会への寄与)」(目標7、13)
・「働きがいのある職場環境の整備」(目標5、8、10)
・「人権の尊重・配慮」(目標6、8、11)
・「健康で豊かな生活への貢献」(目標3、9、12)
・「安定的な調達・供給」(目標6、12、14、15)
・「確固たるガバナンス体制の堅持」(目標16)
マテリアリティの具体的な事例では、「技術革新による商いの次世代化」のAIやIoT、フィンテックなどの新技術の活用を通じた、ユニー・ファミリーマートHDを起点とするグループバリューチェーンの価値向上。また、「健康で豊かな生活への貢献」の高齢化社会に対応するICTを利用した健康管理支援事業などがあげられる。強みである次世代ビジネスや生活消費関連、リテール関係、健康経営に関しては、重要課題と特定することで、更に強化を進めていく。
大きなポイントは、新たに特定した7つの重要課題の内容もさることながら、特定に至るまでのプロセスにあるだろう。今回の改訂では、中長期的な社会課題・成長の機会が網羅されているSDGsをベースに持続的成長の為の課題を抽出。
カンパニーごとに事業活動に沿った重要課題を特定した上で、サステナビリティ推進の具体的な対応や成果指標を定めた「サステナビリティアクションプラン(中長期コミットメント)」を作成し、外部有識者に評価を求めた。こうしたステップを経てから、サステナビリティ委員会で重要課題を検証後、取締役会で重要課題を特定した。
実務レベルから経営層までがプロセスに関与し、「持続的成長」という観点で全社的に重要課題を特定したことで、従来の環境・社会面だけでなく、事業活動全体を意識した重要課題の改定となった。
「各営業カンパニーの意思決定会議で『サステナビリティアクションプラン』の決議を行うなど、多くの討議が全社でなされることでESGやSDGsの重要性の認識が社内で格段に高まった」と田部氏は語る。
「サステナビリティアクションプラン」についてもSDGsを基に策定されている。具体的な成果指標で述べると、例えば、機械カンパニーでは、「2030年度までに再生可能エネルギー比率を20%超(持分容量ベース)」、食料カンパニーでは「2018年度に食料・食品関連事業でのRPA (Robotic Process Automation)・AIを活用した業務の試験的な開始」、人事・総務部では「2020年度のがん・長期疾病による離職率0%」などだ。
伊藤忠商事は創業160年の歴史の中で「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の経営哲学を「伊藤忠流」のサステナビリティとして受け継いできた。
田部氏は、「環境が整備された働きがいある職場で、『人々の豊かな営みに根差した“身近な商人”』として、『デジタル化』や『第4次産業革命』を始めとした事業変化に挑み、重要課題に本業を通して取り組むことで、SDGsの達成に寄与し、新時代“三方よし”による持続的成長を目指したい」と力を込めた。