タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆Non Gon 党
大泉と一時間ほど話し合ってから、片桐は農水省内にある記者クラブに寄った。ドアを開けようとするとそれより先にドアが開いて記者ら引き人が一人出てきた。
「桃山?」片桐が声を上げた。「片桐!どうしたの」桃山が言った。桃山は農民新聞の記者だ。同じ地方国立大学文学部の同級生だ。
「今忙しい?」片桐が聞いた。
「今晩六時から元総理大臣の泉さんの記者発表があるんだ」
「おれもそれに行く」片桐が言った。
二人は地下鉄で発表がある五反田にある城北信用金庫の本店に向った。城北信金の元理事長原田は任期を待たずに後進に道を譲ったという奇特な経営者で、バランスシートは利益と社会貢献の対比であるという持論の持ち主である。そして彼は今日本に必要な事は自然再生エネルギーの普及であり、原子力発電の撤廃は倫理上当然のことであると明言している。一方泉元総理も、総理を辞めてから、原発の危険性に目覚め、今や原発反対の旗手となっている。
「何か新しい政党を造るのかな?」片桐が尋ねた。
「いやそれほど大きな発表ではないよ」桃山が応えた。「まあ言ってみれば分かる事だ」
会場は信金の講堂のようなかなり広い部屋だったが満員で、テレビカメラや外人の記者たちも来ていた。泉人気はまだまだすたれていない。発表は六時きっかりに始まり、著名な環境活動家や法律家が三人、原発の危うさと、経済的なコストを論じたあとホスト役の元理事長の原が経済人らしく様々な数字を事細かに上げて、原発の危うさと再エネの必要性を説いた。
最後に泉元総理が、ユーモアを交えて原発反対
No Nuclear、再エネ賛成 Go Natural Energy
の頭文字を取ってNon Gon党を結成し、党首はは原さんだと発表した。カメラのフラッシュが間断なく光り、多くの質問が飛び交い、発表は終わった。片桐は敢て質問をしなかった。原党首の人となりを知っていたからだ。片桐は桃山に言った。皆が帰った後で原さんに独占インタビューをしようよ。
「誰もいない所でどうしてインタビューができるんだい」桃山が怪訝そうにいうと
「原さんは後片づけを自分でするから見ていろよ」と片桐が答えた。「そういう人だって職員から聞いているよ」
はたして元首相がぶら下がりを従えてエレベーターにのると、皆は後を追うように会場を後にした。そして後は職員が椅子やテーブルを片付けているだけだった。しかして、原は職員と一緒に片付けていた。
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